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第39話 誰の名前で届くべきか

最終査問の日、交換局の広間は前回より静かだった。


 ベルント、エーヴァルト、ロッテ、エルザ、トビアス、アンナ。止められた側も、止めた側も、同じ机を挟んで立つ。私は中央へ、裏簿と試験便の封筒を置いた。


「まず確認します」


 私は一枚ずつ示した。旧軍郵袋から出た未着書類、偽の返送札、保険処理裏簿、ロッテの証言、夜明け前の袋詰め替え、そして今朝触られた大聖堂宛の結婚通知。


「これらは全部、受取人の名を途中で別の都合へ変えた記録です」


 ベルントはまだ姿勢を崩さない。


「部下の暴走と、仲介業者の逸脱でしょう」


「では、なぜ局長しか保管できない旧印が私たちの結婚通知へ押されているんですか」


 封筒を開き、内側の番号を示す。続けて、公開封印時の控えと現在の筆圧位置も並べる。


「この封筒はあなたが触っています」


 広間が揺れた。ベルントの顔から、ようやく礼儀だけで作った余裕が消える。


「私は秩序を守ろうとしただけだ」


「誰の秩序ですか」


 私の声は、自分でも驚くほど静かだった。


「夫を亡くした人へ届くべき弔慰金です。任務を終えた兵へ届くべき復職証明です。結婚する二人へ届くべき婚礼書類です。紙には最初から名前が書いてある。その名前を、途中の人間が都合よく書き換えていいはずがない」


 ベルントは何か言い返そうとしたが、ロッテが先に口を開いた。


「局長はいつも言いました。“誰に届くかより、誰が困るかを見ろ”って」


 その一言で、終わった。


 エーヴァルトが視線を伏せ、ベルントは初めて椅子へ沈む。人の名前を数合わせにした者の顔だ。


 レオンハルトが短く告げた。


「処分と返還を進める。未着分は全件再送」


 私は最後に、今朝の結婚通知を持ち上げた。


「これは私たちの紙でした。でも、本当は誰のでも同じです。届くべき名は、受取人のものです」


 広間の隅で、アンナが小さく頷いた。エルザは目を閉じ、トビアスは肩の力を抜いた。


 ようやく、名前が本人のところへ戻っていく。


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