第38話 私たちの結婚通知を出す日
証拠が揃っても、最後に一つだけ試したいことがあった。
私はレオンハルトへ言った。
「私たちの結婚通知を出しましょう」
彼は驚かなかった。少しだけ眉が動き、それから頷く。
「試験便にするか」
「はい。大聖堂宛、王都のグレーテ宛、国境路沿いの村役場宛。全部、正式な礼状と通知にします」
止めた側が本当に“名前”を軽く見ているなら、目立つ封筒ほど手を出す。私たち自身の紙でそれを証明できるなら、誰にももう“山ではよくある”と言わせなくて済む。
私は便箋へ丁寧に文を書いた。
『婚姻受理のご報告と、これまでのご助力への御礼を申し上げます』
書き終えてから、署名欄で少し止まる。
エルマ・シュタール。
エルマ・ヴァインベルク。
迷った末、私は両方を書いた。
『エルマ・シュタール・ヴァインベルク』
仕事で積み上げた名も、これから受け取る名も、どちらも私だ。途中で誰かに削らせる理由はない。
封印は公開で行った。番号、時刻、立会人。さらに今回は、封筒の内側へ見えない印を付けるだけでなく、表書きの筆圧位置も控えた。触ればずれる。
夕方、ベルントへ最終査問出席を命じた上で、通知を通常交換便へ載せる。彼は平静を装ったが、私たちの封筒を見た瞬間だけ喉が動いた。
翌朝、開封前の交換袋を検めると、大聖堂宛の封筒だけが薄く擦れていた。表の宛名の横に、新しい“宛先確認待ち”印が追加されている。しかも欠けた旧印で。
「最後まで同じ癖ですね」
私は封筒を掲げた。内側の番号も、筆圧の位置もずれている。ベルントが触ったとしか思えない。
止めたい理由は、もう金だけじゃない。私たちの紙まで握りつぶせると示したいのだろう。だったら、なおさら人前で終わらせるしかない。




