第35話 止められた花嫁便
花嫁便は、花より先に台帳へ載る。
私はアンナの婚礼関係書類を三通に分けて整えた。嫁資目録、立会依頼、土地持分証明の写し。どれも偽物にすり替えられないよう、控え番号と封印位置を記録する。
アンナは少し緊張した顔で封筒を見つめていた。
「また止められたら」
「その時は、止めた人の手が残ります」
私は侯家紋入りの封蝋を押した後、中央配送室管理印も重ねた。二重封印。さらに封筒の内側の折り返しへ、外からは見えない小さな番号を書き入れる。
「読まなくても、触ればわかる仕掛けです」
ヒルデが控えへ番号を書き写し、ヨハンが運搬順を整える。マグダはアンナへ温かい茶を持たせ、ハインツは夜明け前に山駅へ入る道を確認していた。全員の仕事が噛み合うと、罠はただの待ち伏せではなく、きちんとした監査になる。
封印が終わると、アンナが小さく言った。
「婚礼の紙って、もっと嬉しいものだと思っていました」
「本当はそうです」
私は封筒を箱へ納めた。
「だから取り戻します。嬉しい紙のままで」
夕方、レオンハルトが私の机へ別の封筒を置いた。こちらは私宛ての短い手紙だ。
『無理はするな。だが今夜は一緒に起きる』
私は思わず笑ってしまった。無口な侯は、たまに必要以上にまっすぐだ。
「笑ったな」
「ええ。こういう時に優しいのは、ずるいです」
「優しくない時があれば教えろ」
たぶん、そんな日は来ない。
夜が深くなる前に、私は試験便箱へ鍵を掛けた。封印番号、時刻、立会人名。順番を守る。明け方に誰かが順番を崩しに来るなら、こちらも順番の中で待っていればいい。




