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第34話 無口な辺境侯の公開査察

公開査察の日、山岳交換局の前には思った以上に人が集まった。


 エルザ、トビアス、アンナ、その家族。冬の間に通知を待ったまま諦めかけていた人たち。さらに、共同倉庫へ土地を売れと勧められた村人まで来ている。


 レオンハルトは階段上に立ち、短く告げた。


「交換袋監査を公開で行う。止められた書類は本人へ返す。異議がある者はここで出せ」


 無口な侯の声は、長い演説よりよく通る。言葉を削っても、責任まで削らない人の声だ。


 ベルントは礼儀正しく頭を下げた。


「もちろん協力します」


 だが彼は、封印箱だけは自分で持とうとした。私が制すると、ほんの一瞬だけ表情が固まる。


「印章管理は監査対象です。こちらへ」


 箱を開けると、新印、旧型予備、廃棄済み台帳の控え。並び自体は整っている。けれど旧型予備の本数が、カスパルの証言と合わない。


「一本足りません」


「記録の誤差でしょう」


「なら、夜間開閉簿の切り取りも誤差ですか」


 私が切断跡の写しを出すと、人垣がざわついた。続けて旧軍郵袋、偽の返送札、保険処理票も示す。ベルントの笑みはまだ消えないが、もう余裕の形ではない。


「山では古いものが混ざるのです」


「最近の日付の婚礼立会依頼まで?」


 アンナが一歩前へ出た。


「私の婚礼、あなたの“山ではよくある”で止められたんですか」


 その一言が効いた。役人同士の言い逃れより、待たされた本人の声の方がよほど重い。


 ベルントはついに視線を逸らした。だがまだ、決定打ではない。彼は“部下の独断”と言い出す余地を残している。


 公開査察の最後に、私は新しい試験便番号を読み上げた。アンナ宛の婚礼立会依頼、嫁資目録、そして交換局経由で送る立会控え。


「本日ここで封印し、明朝の交換袋へ入れます」


 ベルントの目が、わずかに動いた。


 その癖が欲しかった。


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