第32話 雪解け路に残る旧軍郵袋
春の水は、埋めたつもりのものをよく吐き出す。
ハインツに連れられて、私は旧軍用の迂回路へ向かった。戦時にだけ使われた細い山腹道で、今は半分崩れ、半分水路になっている。地元の子どもが、布の端が見えると知らせてくれたのだ。
土を払うと出てきたのは、古い軍郵袋だった。色褪せた軍紋の下に、新しい麻紐が巻かれている。戦時の残り物に見せかけて、最近また使っていた。
袋を開けると、湿り気の中から最近の日付の封筒が何十通も現れた。弔慰金通知、兵舎再入室許可、婚礼立会依頼、農地相続照会、村道補修願い。全部、受取人が待っていた紙だ。
「古い袋に混ぜて隠した」
私が言うと、ハインツは顎を引いた。
「見つかっても、昔の残りだと言い張れる」
袋の底には、保険処理票まで入っていた。つまり、止めた後に“紛失”として金を動かし、それでも実物は手元へ残している。最悪だ。紙も金も、両方食っている。
さらにもう一つ、小さな木箱が出た。中には返送札の予備と、旧印で押した空白受取票。使う前の偽装道具だ。
「これで言い逃れは減りました」
私は箱を閉じた。エルザの夫の名、トビアスの復職、アンナの婚礼。全部がここで同じ泥を被っている。
帰り道、私は馬上で封筒の宛名を一つずつ読み上げた。そうしないと、ただの“証拠物件”になってしまいそうだったからだ。
人の名前を証拠としか見なくなったら、止めた連中と同じになる。
中央配送室へ戻ると、レオンハルトは無言で新しい乾布を差し出した。濡れた封筒を乾かすためのものだ。
「全部救える」
「はい。少なくとも、今ここにある分は」
私は答えながら、胸の奥で少しだけ力が戻るのを感じた。見つかった袋は重かったけれど、見つからないよりずっといい。




