第30話 配達保険金の行方
金の流れは、手紙より遅くても、嘘よりは遅くない。
私はヒルデと保険処理簿を一日かけて洗った。エーヴァルト・ゼンガー商会へ流れている金は、未着補償、保管手数料、再梱包費、代理受領手当。名前は違うのに、日付と金額の幅が妙に揃っている。
「同じ型紙で請求してますね」
「しかも、受取人が困るほど請求額が増えている」
エルザの弔慰金通知が止まった週には、保険処理費が二件。トビアスの復職証明が未着扱いになった週には、臨時保管料が三件。アンナの招待状が消えた翌日には、共同倉庫への移送費が新しく立っていた。
全部、交換局から一度エーヴァルト商会へ流れている。
「紙を止めて、保険を取り、困った相手から土地も買う」
私が整理すると、ヒルデは深く息を吐いた。
「綺麗に腐っていますね」
そこへヨハンが共同倉庫周辺の土地売買記録を持ってきた。去年の冬から春にかけて、寡婦、復職待ちの兵、婚礼延期になった家から、細切れに土地が買われている。買い手は別々だが、登記代筆は全部同じ書記。
エーヴァルト側の書記だった。
私は地図の上へそれぞれの土地を置いていった。点が線になる。線が道になる。その道は、雪解けで再開する国境路沿いだった。
「倉庫を広げたいんですね」
「そのために、届くべき名前を弱らせている」
レオンハルトは地図の上で、買われた土地を指先でなぞった。
「この路線は、侯領の食料と薬も通る」
「だからこそ、民の権利より先に倉庫の都合を通したい」
帳簿は十分揃ってきた。けれど金の流れだけでは、ベルントは下請のせいにする。必要なのは、彼が自分で袋を触った証拠だ。
私はその日の終わりに、アンナの未着招待状控えへ赤い印を付けた。
『試験便候補』
こういう時、花嫁の紙はよく効く。止めた側が、また同じ癖で触るから。




