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第3話 無口な辺境侯からの招聘状

レオンハルト・ヴァインベルク辺境侯は、王都の男たちよりずっと短い言葉で要件を済ませた。


 待ち合わせ場所は駅前ではなく、王都郵便局裏の古い仕分け倉庫だった。目立つ場所を避けたのだろう。黒い外套を着た三十八歳の男は、積み上がった郵袋の前で私を待っていた。高い背、静かな灰色の目。第一印象は、冷たいというより隙がない。


「エルマ・シュタール殿」


「はい」


「北辺へ来てほしい」


 前置きはそれだけだった。


 彼が示したのは、北辺から王都へ送られた未着の一覧だ。嘆願書、年金申請書、橋梁補修願い、冬季配給の不足報告。どれも王都に届いた記録がないのに、北辺側の控えでは『急送済』になっている。


「領内の文書庫も荒らされています。誰かが『届かなかったこと』を利用している」


「だから、届いたかどうかを証明できる人間が必要」


「そうだ」


 答えは即座だった。そこに憐れみはない。ただ必要だから呼んだというだけ。


「王都では、急使便紛失の責任を押しつけられました」


「知っている」


「それでも雇うんですか」


「だから雇う。記録を消された側は、消し方をよく覚えている」


 理にかなっていた。しかも彼は条件も明確に並べた。辺境侯家文書庫の再編責任者として採用、住居支給、必要な閲覧権限の付与、王都からの不当照会に対する保護。


「恋愛沙汰の後始末まで含めて面倒を見るつもりはない」


「結構です。私も、庇ってくれる男を探しているわけではありません」


「なら話は早い」


 その一言に、少しだけ肩の力が抜けた。王都では誰もが私を事情つきの女として扱った。けれどこの男は、私を仕事の出来る人員として見ている。


「いつ発ちますか」


「今からでも」


「本当に短いですね、あなた」


「長い言葉は、必要なら後で書く」


 私は思わず笑った。こんな日に笑うとは思わなかった。


「わかりました。北辺へ行きます」


 婚礼の代わりに受け取ったのは、雇用契約書だった。けれど署名した瞬間、昨日よりよほど未来がまっすぐ見えた。


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