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第28話 祝宴招待状の消失

花嫁の手紙が止められる時は、だいたい花ではなく土地が絡んでいる。


 午後、北辺東村から二十九歳のアンナ・ヴァイスがやって来た。来週婚礼を控えているというのに、祝宴招待状と嫁資目録一式が丸ごと届いていないらしい。しかも相手方の村へ送った婚姻立会依頼まで未着だ。


「招待状だけなら笑えました。でも、嫁資目録がないと母の畑を持って行けないんです」


 彼女の声は震えていた。嫁入り道具ではなく、生活の基盤を移すための目録なのだろう。


 私は差出控えを見る。発送は北辺中央配送室。ところが追跡上は、なぜか山岳交換局で『外地転送候補』になっていた。


「外地でも何でもありません。隣村でしょう」


 ヒルデが呆れたように言う。


「つまり、わざと交換袋へ混ぜています」


 アンナは両手をきつく握りしめた。


「婚礼が延びたら、母の畑を売れって言われています。山路が開いたら共同倉庫を広げるから、今なら高く買うって」


 私は顔を上げる。共同倉庫。エーヴァルト・ゼンガー商会が借りている場所だ。


「誰に」


「倉庫の仲介人です。笑って言いました。『書類が揃わないなら、急ぐ話でもないでしょう』って」


 あまりにもわかりやすかった。弔慰金、復職証明、婚礼書類。全部、期限や立会が必要で、止めれば権利が緩む。


 私はアンナへ受理証と仮立会依頼を書いた。


「婚礼は止めさせません。招待状も目録も回収します」


「本当に?」


「本当にです」


 マグダが横から言う。


「花嫁を待たせると、後が怖いですよ」


 それは半分冗談で、半分本気だった。止められて困るのが未亡人と帰還兵だけだと思ったら大間違いだ。生活を始めるための紙まで奪うなら、今度は町全体が敵に回る。


 私は嫁資目録の控え番号を保険簿の余白へ書き足した。線はもう十分見えている。次は、その線を人前へ引きずり出す。


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