第23話 山駅に積まれた返送袋
春先の山道は、嘘を隠すには向いていない。雪は溶け、中身だけが残るからだ。
ハインツの案内で辿り着いた山駅は、国境へ向かう荷馬車の中継点だった。屋根の低い石造りの倉庫が二つ。片方は現役、もう片方は“閉鎖中”の札が掛かっている。
「閉鎖してる方、冬の間に灯りが見えたって話がありました」
ハインツが鍵をこじ開けると、湿った空気の中から郵袋の匂いが立ち上った。
奥には返送札のついた袋が八つ、壁際に積まれていた。札には『宛先不明』『受取拒否』『保管期限切れ』。どれもそれらしく見える言葉だ。けれど実際に封筒を抜いてみると、宛先は現存する村役場、既婚女性、帰還兵詰所、寡婦名簿係。ひとつも“わからない宛先”ではない。
「止めるための言葉ですね」
私は返送札の針穴を指でなぞった。同じ位置、同じ癖の縫い留め。まとめて後付けした形跡だった。
さらに袋の底から、配達不能にしては新しすぎる封筒が出てくる。封の端に付いた泥は、山駅裏手の赤土と同じ色だった。つまり、わざわざここへ持ち込んでいる。
「監査官殿」
外から男の声がした。三十二歳のトビアス・メーラー。冬の終わりに国境警備から戻った帰還兵で、今は宿駅の馬番をしているらしい。
「俺の復職証明、ここにありませんか」
「未着ですか」
「ええ。部隊からは出したと聞きました。ないと兵舎にも戻れないし、復職金も受け取れない」
私はトビアスから日付と部隊番号を聞き、袋の束をひっくり返した。三つ目の袋に、それはあった。未開封のまま、他の通知に混じって。
「ありました」
紙より先に、彼の肩が崩れた。男が人前で泣くのを我慢する時の顔は、私は何度も見てきた。
「届かなかっただけなんだな」
「はい。あなたがなくしたわけじゃない」
ハインツが低く舌打ちする。生活を立て直すための紙ばかりが、こうして積まれていた。
倉庫を出る頃には、返送袋の荷札、封筒の写し、返送理由の筆跡見本まで揃っていた。山駅には嘘が積まれていたが、積み方に癖があるなら、崩す順番も決められる。
帰り道、レオンハルトは回収した袋を自分の馬へ括りつけた。
「中央配送室で開く」
「全部です」
私が頷くと、彼も短く頷いた。
止められたものを運び直す時、侯は誰より先に袋を持つ。そういう人と働くのは、気持ちがいい。




