第24話 中央配送室の婚姻届控え
中央配送室へ戻った夕方、ヨハンが新しい封筒を差し出した。
「本日一番整っていた便です」
差出人は王都家政記録院。封を切ると、婚姻届受理控えが入っていた。あの日、私が相手方欄へ自分の名を書いた書類の正式写しだ。
私は控えを机へ置き、しばらく見つめた。受理番号、日付、双方の年齢、証人欄。どれも整っている。整いすぎていて、少しくすぐったい。
「良かったですね」
ヒルデが笑い、マグダはあからさまに台所から顔を出した。仕事場なのに、全員わかりやすい。
だが同封の送達一覧を見て、私は眉をひそめた。家政記録院から北辺中央配送室宛、侯家保管用一通。王都大聖堂宛の儀礼通知一通。後者だけ、到着欄が空白だった。
「片方が止まっています」
レオンハルトが私の肩越しに一覧を見る。黙ったまま、紙の端を指で押さえた。
「俺たちのでも」
「ええ。だから逆に、これで個人的なものも狙われていると断定できます」
私は控えをそっと封筒へ戻した。嬉しい書類まで監査の対象に見えてしまうのは、職業病だろう。でも見落とさない方がいい。
夜、文書庫で一覧を整理していると、レオンハルトが新しい便箋を一枚差し出した。
「名はどうする」
「仕事の記録上は、しばらくシュタールのままがいいです。過去の監査簿とつながるので」
「私生活では」
「それは……考えます」
彼は少しだけ口元を緩めた。からかう気配はない。ただ、返事を急がせない。
「好きに決めればいい」
「そうさせてもらいます」
私は婚姻届控えの番号を、新しい監査台帳の余白にも書き込んだ。私たちの書類でさえ途中で止まるなら、もう言い逃れはできない。今度の不正は、生活だけでなく名前の行き先まで勝手に決めている。
それがどうにも、腹立たしかった。




