第21話 国境交換袋の新路線
新しい配送室が動き出すと、止まっていた手紙だけでなく、新しい厄介事までよく届く。
中央配送室の棚番号を見直していた朝、ヒルデが一人の女を連れてきた。灰色の外套をきちんと抱えたまま立つその人は、三十四歳のエルザ・クルーガー。国境山村で冬の警備に出ていた夫を亡くした寡婦だという。
「届いたのは、この一枚だけです」
差し出された通知には、弔慰金支払済み、とあった。受取日は先月末。ところが彼女の手元へ金も正式通知も届いていない。
「受取人欄の署名も違います」
私は紙を光へかざした。薄い青の帳票に、見慣れない黒い検査印が重なっている。王都郵政省のものでも、北辺中央配送室のものでもない。欄外には小さく『国境交換』の朱字。
ちょうどその時、ヨハンが新しい公文を持って入ってきた。雪解けに合わせて、閉じていた山岳交換路を再開する、という通達だった。北辺側の中央配送室が、当面の監査窓口を兼ねるらしい。
「開通初日から、もう穴があるんですね」
私が呟くと、レオンハルトが机越しに通知へ視線を落とした。彼は相変わらず言葉が少ない。けれど必要な時だけ、短く正しい。
「引き受けるか」
「引き受けます。これは手違いじゃありません。受け取っていない弔慰金を、誰かが“届いたこと”にしています」
エルザは唇を噛み、声を殺すように言った。
「冬の間は、夫のことを片づける書類ばかりでした。でも、こんな終わり方は嫌なんです」
私は通知を丁寧に卓上へ置いた。
「終わらせません。届くはずのものは、ちゃんと届いた形に戻します」
差出簿、交換袋、検査印。洗うべきものは山ほどある。けれど今度の私は、燃やされた封筒の前で立ち尽くしていた頃の私ではない。届かなかった理由を、順番に剥がせる。
その日の午後、私は国境交換袋監査用の新しい台帳を開いた。最初の記録欄へ、エルザ・クルーガーの名を書く。
最初に取り戻すべきなのは、金ではない。受取人の名前だ。




