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第20話 この手紙はまっすぐ届く

三ヶ月後、北辺ヴァインベルク侯領の新しい中央配送室が開いた。


 石壁を補修し、湿気を防ぐ棚を入れ、配達路ごとに色分けした仕分け箱を置く。未着便には理由欄、再送便には控え三通、私信の開封権限は本人同意のみ。誰かの都合で手紙を止められないよう、最初から全部組み直した。


 開室初日、ヒルデが新しい配達簿を抱えて言う。


「監査官殿、今日は私信が一番多いです」


「良いことです。公文だけの町は、たぶん息苦しい」


 マグダは祝いの菓子を並べ、ヨハンは新しい印章箱を運ぶ。ハインツは隊員たちへ道順を怒鳴っていた。全員忙しく、全員成人で、全員ちゃんと働いている。


 昼前、レオンハルトが正式な封筒を一つ差し出した。


「優先便だ」


 中には婚姻届が入っていた。差出人、レオンハルト・ヴァインベルク、三十八歳。相手方欄は空白のまま。


「業務中に私用を混ぜていますよ、侯」


「届かないと困る」


 私は受理台帳へ新しい番号を振り、相手方欄へ自分の名を書く。エルマ・シュタール、三十歳。配達記録を洗い続けた女の、今度は止められない届出だ。


「問題ありません。受理します」


 印を押した瞬間、外で配達隊の歓声が上がった。マグダが絶対に聞いていた顔で拍手し、ヒルデは既に祝宴の名簿を書き始めている。


 窓の外では、新しい配達路へ馬が出ていく。北辺から王都へ、王都から村へ、人から人へ。止められていた時間ごと運ぶみたいに、便袋がひとつずつ遠ざかっていく。


 私は受理済みの婚姻届と、朝一番に届いたレオンハルトの短い私信を並べた。


『今日も、最初の一通は君へ』


 たったそれだけの文だ。でも今はもう、途中で燃やされる心配はない。


 この手紙は、まっすぐ届く。私の仕事も、私の名前も、私の幸せも、もう誰にも勝手に止めさせない。


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