第19話 もう代筆はいりません
処分撤回から二日後、私は王都郵便監査局へ復職を打診された。
肩書も待遇も、以前より良い。局長は露骨に機嫌を取り、次官は「今後はぜひ中心で」と笑顔を作る。けれど私の心は、北辺の文書庫の方角へばかり向いていた。
夕方、宿へ戻ると一通の封筒が届いていた。差出人はレオンハルト。王都へ同行しているのに、わざわざ手紙で寄越してきたらしい。
封を切る。字は少しだけ硬い。たぶん何度も書き直したのだろう。
『代筆はもう要らない。言いたいことが一つある。君が王都へ残ると決めても止めない。ただ、俺は君に北辺へ戻ってきてほしい。仕事のためだけではなく、朝一番の手紙をこれからも君宛てに出したい』
最後の行だけ、少しだけ字が乱れていた。
私はそのまま宿の廊下を走った。角を曲がると、窓際にレオンハルトが立っている。外套姿のまま、逃げも隠れもしない顔で。
「手紙、読みました」
「そうか」
「ずるいですね」
「どこが」
「代筆をやめた途端、それを書くんですか」
彼はほんのわずかに目を伏せる。
「言わないまま残すよりましだと思った」
私は胸元の手紙を握りしめた。
「王都に残れば、肩書は戻るでしょう。でも、私の手紙をちゃんと読んでくれる場所は北辺です」
そう言って一歩近づくと、彼の灰色の目が静かに揺れた。
「だから、戻ります」
「仕事のために?」
「それもあります」
私は笑って、彼の胸元へ手紙を押し当てる。
「でも次からは、返事が不要なんて書かないでください」
今度こそ、彼がはっきりと笑った。無口な辺境侯のそんな顔を見られるなら、王都の綺麗な肩書よりずっと得だと思えた。




