表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/26

第19話 もう代筆はいりません

処分撤回から二日後、私は王都郵便監査局へ復職を打診された。


 肩書も待遇も、以前より良い。局長は露骨に機嫌を取り、次官は「今後はぜひ中心で」と笑顔を作る。けれど私の心は、北辺の文書庫の方角へばかり向いていた。


 夕方、宿へ戻ると一通の封筒が届いていた。差出人はレオンハルト。王都へ同行しているのに、わざわざ手紙で寄越してきたらしい。


 封を切る。字は少しだけ硬い。たぶん何度も書き直したのだろう。


『代筆はもう要らない。言いたいことが一つある。君が王都へ残ると決めても止めない。ただ、俺は君に北辺へ戻ってきてほしい。仕事のためだけではなく、朝一番の手紙をこれからも君宛てに出したい』


 最後の行だけ、少しだけ字が乱れていた。


 私はそのまま宿の廊下を走った。角を曲がると、窓際にレオンハルトが立っている。外套姿のまま、逃げも隠れもしない顔で。


「手紙、読みました」


「そうか」


「ずるいですね」


「どこが」


「代筆をやめた途端、それを書くんですか」


 彼はほんのわずかに目を伏せる。


「言わないまま残すよりましだと思った」


 私は胸元の手紙を握りしめた。


「王都に残れば、肩書は戻るでしょう。でも、私の手紙をちゃんと読んでくれる場所は北辺です」


 そう言って一歩近づくと、彼の灰色の目が静かに揺れた。


「だから、戻ります」


「仕事のために?」


「それもあります」


 私は笑って、彼の胸元へ手紙を押し当てる。


「でも次からは、返事が不要なんて書かないでください」


 今度こそ、彼がはっきりと笑った。無口な辺境侯のそんな顔を見られるなら、王都の綺麗な肩書よりずっと得だと思えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ