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第15話 無口な辺境侯は手紙で甘い

その朝の封筒は、いつもの二行では終わらなかった。


『昨夜の件で眠れなかったなら、午前の報告は午後でいい。机の左に蜂蜜入りの茶を置いた。返事は不要』


 最後の一文まで含めて、六十七文字。辺境侯としては大進歩だ。


 私は思わず封筒を持ったまま笑った。返事は不要と書いてあるけれど、不要と言われると書きたくなる。


『眠れてはいませんが、仕事はできます。蜂蜜はありがたくいただきます。返事は不要です』


 そう書いて送り返した一時間後、彼からまた来た。


『不要なら送るな』


 文句のようでいて、字が少しだけ柔らかい。


 その日の午後、私は文書庫で未着私信の再送一覧をまとめていた。レオンハルトが珍しく自分から椅子を引く。


「代筆は頼まない」


「急ですね」


「君の返事に腹が立った」


「どこに」


「返事は不要、のところだ」


 私は吹き出した。彼は本当に真面目な顔のまま、便箋を前へ置く。


「言いたいことがあるなら、自分で書く」


 そうして彼が苦戦しながら書いた文面は、政務文書よりずっと遅く、ずっと丁寧だった。


『昨夜の件で、君が一人だと思わないでほしい。北辺にいる限り、止められた手紙も、止められた君の時間も、できるだけ取り返す』


 読み終えた瞬間、胸が熱くなった。飾り気なんてない。けれど無口な人が自分の手で書いた言葉は、王都で聞いたどんな甘い囁きより重かった。


「これ、保管しても?」


 私がそう尋ねると、彼は一拍置いて頷いた。


「捨てるな」


「捨てません」


 当然だ。届いてほしかった言葉ほど、私はもう二度と手放さない。


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