第14話 元婚約者は私信まで検閲した
吹雪の翌日、料金所跡小屋の床下から、もう一つ隠し箱が見つかった。
中に入っていたのは未着の公文ではなく、私信ばかりだった。しかも差出人欄には、母の旧友、学生時代の友人、王都監査局の元同僚、そして亡父の従者だった男の名まで並んでいる。
「全部、私宛て」
箱の底から一番古い封筒を取り出す。三年前の日付だ。私がユリウスと婚約した直後。
封を切ると、亡父の従者だった男が『あなたの父上の遺した配達網の控えを預かっている』と書いていた。そんな手紙、私は一度も受け取っていない。
次の一通には、母の旧友から『ユリウス様の係が妙に私信へ手を出している』と警告がある。これも届いていない。
つまり彼は、最初から私の周囲を切り離していたのだ。仕事の照会も、友人の忠告も、家族の記憶につながる便りも。
「婚約者ではなく、門番のつもりだったんでしょうね」
私は低く言う。
レオンハルトが封筒を見下ろした。
「読むか」
「読みます。でも、その前に番号を振ります」
悔しさで手が震えた。けれどこういう時ほど、順番を守る。差出日、消印、配達路、未着場所。泣くより先に記録だ。
夜、私は遅れて届いた私信を一通ずつ読み返した。母の旧友は私を心配していた。友人は王都の噂を知らせてくれていた。亡父の従者は、父が作った辺境連絡路の地図を私へ託そうとしていた。
誰も私を捨てていなかった。ただ、ユリウスが勝手に遮っていただけだ。
「返事を書きます」
私がそう言うと、レオンハルトは新しい便箋を机へ置いた。
「今からでも届く」
その一言で、胸の奥の冷えが少し溶けた。失った年数は戻らない。けれど、今夜から止める手はもうない。




