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第11話 夜更けの文書庫で書く返書

未着箱の再登録が終わった頃、文書庫の外はすっかり深夜になっていた。


 私は机へ突っ伏しかけたが、その前に新しいインク瓶が差し出される。レオンハルトだった。自分の執務を終えたらしいのに、まだ外套も脱いでいない。


「返書を書く」


「侯自ら?」


「署名は必要だろう」


 私は椅子を一つずらした。彼が隣へ座る。近い。無口な人の隣は静かすぎて、自分のペン先の音まで妙に大きく聞こえる。


「文面は私が下書きします。あなたは内容確認と署名を」


「代筆だな」


「嫌ですか」


「いや。君の文章は無駄がない」


 褒め言葉としては随分素朴だけれど、レオンハルトが言うとまっすぐ胸へ落ちた。


 一通目は橋梁修繕の受付通知。二通目は年金申請の再処理連絡。三通目は軍務記録照会の受理報告。私は簡潔に、しかし冷たくなりすぎないよう文面を整えていく。


「ここ、少し硬い」


 珍しくレオンハルトが指摘した。


「不安な相手だ。『確認する』より『一緒に確かめる』の方がいい」


 私は彼を見る。紙の上の言葉に無頓着な人だと思っていたのに、案外よく読んでいる。


「あなた、手紙は嫌いじゃないんですね」


「読むのは嫌いじゃない。書くのが面倒なだけだ」


「それを無口と呼ぶんです」


 小さく笑うと、彼もほんのわずかだけ口元を緩めた。


 返書を書き終えた後、私は空になった便箋束をまとめる。レオンハルトが最後の一枚だけ自分の前へ引いた。


「これは?」


「朝の手紙だ」


「また一言ですか」


「今夜は二行書く」


 そんな宣言を真顔でされると、さすがに笑ってしまう。夜更けの文書庫で、こんなふうに声を立てて笑えるとは思っていなかった。


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