第10話 寡婦たちの未着箱
料金所跡から回収した箱の中で、いちばん重かったのは紙ではなく沈黙だった。
木箱を開けると、差出人も受取人も女ばかりの封筒がぎっしり詰まっている。戦死した兵士の年金申請、負傷した配達夫への見舞金請求、除雪中に亡くなった夫の死亡届、戻ってこない息子を探す母からの照会。
「全部、返事待ちのまま?」
ヒルデが掠れた声を出す。
「返事どころか、受付すらされていないものもあります」
私は封筒の裏へ順番に受付番号を振った。どの手紙にも、書いた人の躊躇いが見える。丁寧な字、震えた字、書き直しの跡。出すだけでも勇気が要ったはずなのに、それが箱の底で眠っていた。
その日の午後、寡婦たちを役場へ集めた。三十代から五十代まで、全員成人。誰も涙を見せまいとしていたが、未着箱を前にすると空気が揺れる。
「あなたたちの手紙は、忘れられていたわけではありません」
私ははっきりと言った。
「途中で止められていました。だから今から、受理し直します」
最初に前へ出たクララが、古い封筒を胸に抱く。
「じゃあ、うちの人が遺した勤務記録も」
「探します。配達簿と軍務記録を合わせれば辿れます」
返事をすると、彼女の目が真っ赤になった。泣きそうなのに、泣くより先に頷く。強い人だと思う。
夜までかけて、私は箱の中身を全部登録し直した。未着番号、差出日、配達路、必要な再送先。マグダが温かいスープを運び、レオンハルトは無言で新しい封筒と便箋を置く。
「今日は遅い」
「そうですね」
「だが、ここで止めるな」
その一言が背中を押した。
誰かの人生は、たった一通の返事で動く。だから私は紙を箱へ戻さない。届かなかった時間まで含めて、今度こそまっすぐ送り返す。




