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予想外の再会に、一瞬、わたしと男の時が止まる。髪と目の色こそ変わっているが、顔の造詣は変わっていない。向こうも、わたしが『ディアン』だということに気が付いたのだろう。
一番に動いたのは、マグラルド様だった。
「そこに止まると、迷惑ではないか?」
ここは店の出入り口。今は別に出入りしたい客はわたしたち以外にはいないようだが、この店は結構冒険者たちの中では人気がある店だ。すぐに他の客がやってきてもおかしくはない。
「しかし、丁度よかった。すまないが、こちらへ」
そう言って、マグラルド様が店の入り口の近くに、男を呼び寄せる。男は気まずそうな表情をしているが、逃げられないと悟ったのだろう。事実、これだけしか開いていない距離で、この男では走ってもマグラルド様から逃げきれないと思う。
「君に、これを」
そう言って、マグラルド様が腰ベルトにつけられた小さな鞄から、とあるものを取り出した。
それは、ジュダネラル王国の記念硬貨。
いつだかに見た光景に、わたしは二度見してしまった。しかも、渡したのは一枚や二枚ではない。男たちのパーティーで、一人一枚もらえるだけの枚数。
記念硬貨を握らされた男は、自分の手の中にある記念硬貨とマグラルド様を何度も見比べている。
「欲しかったのだろう?」
「いや……」
「無事にペルアディアの情報をくれれば、いくらでもくれてやる、と言ったではないか」
いや、言ってたけど……。
リーダーの男が口を滑らせた。わたしの情報を知っている人間とは、多分、ストインさんのことだろう。この男の冒険者パーティーは、ストインさんとグルというか、彼にいいようにそそのかされていたというか、そんな感じだった。
確かに、再会はできたけれど、あの男たちの情報の結果かというと……。
「……いや、そうではなかったな。あのとき、僕の連れが、君の剣を汚してしまった、その詫びだ。僕と君は、それ以降会うこともできず、ようやく渡せてよかった」
マグラルド様の圧がある言葉に、わたしも、男も、気が付いた。
これはいわゆる、口止め料だ。
ストインさんがどこまで情報を開示したのかは知らないけれど、余計なことを話すなよ、というある種の脅し。それにしては、ジュダネラル記念硬貨は高いように思うけど……。元より、死にたくないからストインさんの情報を黙っていたのだろうし、リーダーの男は。
「そ、そうだよな。剣の汚れのことは、これで許してやるよ、は、ははは……」
男は、実に棒読みで言ったかと思うと、逃げるように立ち去った。
「……本当に良かったんですか?」
わたしはマグラルド様に問う。あれ一枚で、かなりの金額になる。あの男たちは根っからの冒険者というか、暴れることが好きな人種だから、冒険者を辞めることはないだろうけど。
しかし。
「ペルアディアに比べたら、安いものだ」
「――ッ」
当たり前のようにマグラルド様が言うものだから、わたしはそれ以上、何も言い返せなくなってしまった。




