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様々な店が並ぶ商店通りで、わたしはいくつか服を見繕う。店舗型の店には、オーダーメイドの高級店しかないから、露天型、あるいは屋台型の店で買うしかない。下着はともかくとして、冒険者として動くための服は消耗も激しいので、いちいちオーダーメイドなんてしてられない。防具ならまた話は別だけど……。
荷物を持つ、と言うマグラルド様から、買ったものを死守しながら、わたしは最後に防具だけ見繕っておこうかな、と店を探す。体格自体は変わりないのだが、胸をつぶさなくなるので、胸回りのものだけ調整しなければならない。
そう思って、商店通りを歩いていたのだが、ふと、マグラルド様が足を止めて問うてきた。
「――……髪は、また伸ばすのか?」
マグラルド様が足を止めたのは、装飾品店の前。装飾品、といっても、ごてごて飾り付けられているデザイン重視ものではなく、透かし彫りのものなど、シンプルな機能性を優先したものが多い。揺れものが付いている髪飾りとか、冒険者としてはちょっと邪魔だからね。娼婦のお姉さんにプレゼントするなら別だけど、そのための小食品は露店ではなく、ちゃんとした店舗を持つアクセサリーの店へと足を運ぶだろう。
髪を伸ばすのか、とマグラルド様に聞かれ、わたしは、なんとなく髪を触る。
「流石にもう少し伸ばすのは思いますけど……」
聖女時代は、結構長く髪を伸ばしていた。聖女は各地に足を運ぶから、長くない方がいいとは分かっていたけれど、貴族令嬢は皆髪を伸ばしているから、わたしもマグラルド様の婚約者を目指すなら長い方がいいかな、と、なるべくロングヘアを維持するようにしていた。
でも、髪の短いのに慣れてしまってからは、あまりにも手入れが楽過ぎて、伸ばすのが少し億劫ではある。マルコラさんやザフィールよりも短い髪は、あまりにも女らしくないので、もう少し長さは欲しいけれど、かつて伸ばしていたほどにはしないと思う。
「そうか。では、髪が伸びた頃に、髪留めを贈らせてくれ」
「一杯伸ばします」
それは話が別だよね? マグラルド様が髪飾りをくださるというのなら、一杯伸ばす。前より長くなっても、ちゃんと手入れしてみせる。女に戻ったから、堂々と共同の女風呂に入れるし。
マグラルド様は、どのくらいの髪の長さの女性が好みだろうか、やっぱり貴族令嬢みたいに、色々アレンジがきくくらい伸ばした方がいいかな、と思いながら防具店にたどり着く。
店の扉を開けようとして、その前に、扉が開いた。この店、ドアマンがいるような高級店じゃなかったと思うんだけど……と、目線をドアノブから上の方にずらすと。
「あ」という声が、思わず重なる。わたしと、今、扉を開けた人物のもの。
扉を開けたのは、いつぞや、わたしとぶつかって剣が汚れたと、いちゃもんを付けたあの男だった。




