85
ディアンの格好で冒険者を辞める手続きを終え、わたしは『エーデルヴルフ』の拠点に足を運び、声を戻してもらった。髪や目の色は、定期的に染めることで色を変えているが、声だけは魔法でいじったので、解除してもらわないと元に戻らない。
ちなみに、余談だが、わたしの目の色が、薬を使う時期よりも早く元に戻ってしまったことに関して聞いてみたら、「泣いたらその分、色が抜けやすくなることもあるわよ。毎回泣いて取れたら薬として役に立たないから、必ず抜けるわけじゃないけどねえ」と教えてくれた。
そういえば、アルレームでエンテレ鳥の肉だね串を食べたときに、泣いたっけ。しかも、その後、頭から水をかぶっている。そりゃあ、抜けやすくもなるよね、薬。
目の色のことを教えてもらい、声も治してもらい、わたしは『エーデルヴルフ』の拠点を後にした。
「……わたし、こんな声だったっけ」
二年ぶりに戻ってきた女の声は、自分のものでない気がして、そわそわする。男の声も、なったばかりの頃は違和感があって気になっていたから、まあ、そのうち慣れるだろう。こちらの声の方が本当なので、慣れる、というのも変な話だけれど。
『エーデルヴルフ』の拠点はいくつかあり、そのどの場所も紹介制で、男子は禁制。そのため、少し離れた通りで、マグラルド様を待たせている。
待ち合わせの場所に行くと、意外にも、マグラルド様の周りに女がよりついている、ということはなかった。全人類マグラルド様のこと好きになっちゃうでしょ、とか思っていたが、そもそも、マグラルド様は初対面の人にはおびえられやすい、ということをすっかり忘れていた。
それに、今は真昼間だし。一番警戒せねばならない娼婦のお姉さん方は、今頃夢の中だろう。
「お、お待たせしました」
わたしがそう言うと、マグラルド様は、一瞬、懐かしそうな顔をした。わたしは違和感のある声だったけれど、この声が、本当にわたしの声らしい。
「――では、行くか」
そう言って、マグラルド様が、商店通りの方に歩き出す。
わたしの私物は全て、男物。ディアンとして生きてきたのだから、当たり前と言えば当たり前だけど。
でも、これからはペルアディアとしてリリリュビさんのパーティーに加わるので、ある程度、女の私物をそろえなければならない。
わたしはマグラルド様の隣に立ち、歩く。
一緒に買い物デート、と言っても過言ではないこの状況。
二年前、夢見ていた妄想が、今、現実になっている。その状況に、わたしの心臓は、うるさいくらいに早鐘を打っていた。




