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え、も、もしかして、照れてらっしゃる……?
ものすごく、今、彼の顔を見たい、と思う反面、多分、わたしの顔もつられて赤くなっているだろうから、そのまま顔を隠して、わたしの方も見ないでいただきたい、とも考えてしまう。マグラルド様の顔は見たいのに、わたしは見てほしくない、とは、なんとわがまま。
「……僕はもう、王族じゃない」
マグラルド様の声は、小さかった。弱っていて、とかではなく、単純に、照れているだけなのが分かる。
「君に、誓ったのにな。君に見限られるような王族にはならない、と」
「――……っ!」
わたしは思わず息を飲む。
わたしのための、ささやかな菜園での、あの約束を。あの誓いを。
この人は、覚えていてくれたのか。
マグラルド様は、簡単にこういったことを忘れるような人ではない。
それは分かっていても、明確に、本人の口から覚えていると言われるのでは、別格だ。言葉にならない喜びに、体中が襲われる。
やばい、手汗が。
わたしがマグラルド様から手を放そうとすると、その手を追いかけられ、今度はマグラルド様の手に握りこめられてしまった。
そのまま、手を引っ張られたかと思うと、腰を抱かれる。先ほどまで、わたしが胸でマグラルド様を抱き支えるような形だったのに、完全に形成が逆転した。
先ほどまで死にかけていた人とは思えないほどの元気さだ。『障り』はわたしが移動させたとはいえ、復活が早過ぎる。体力どうなってるんだ、この人。
「こんな、僕で、いいのか。あんな約束を守れない、僕で」
そう言いながら、わたしをまっすぐ見てくれるマグラルド様は、いつになく、真剣な表情で――熱に浮かされたような瞳をしている。『障り』の影響で発熱したわけじゃない、というのは、流石のわたしでも分かる。
目を逸らしたいのに、逸らせない。今、ここで目線を泳がせたら、一生後悔する。
この人の、この表情を、目に焼き付けたい。
「……貴方様が、よいのです。身分が変わった程度で、この感情が捨てられたのなら、もう、とっくに、諦めがついていました」
二年も引きずり、娼婦や家族経営の店に嫁入りすることもできず、男装の冒険者という道を選んだわたしの重さを、なめないでほしい。
ただ。
再会したとき。『ディアン』として、接して、人生で初めて、マグラルド様と手をつないだ。
「――、マグ、ラルドさま……っ」
そして、今。マグラルド様から、口づけをいただいてしまった。
少し触れ合っただけの唇は、それでも、酷く熱を持つ。あの日、幸せを全て失ってしまった炎よりも、ずっと鮮烈で。
わたしの幸せ全てを奪った炎と違い、この熱は、わたしを幸せだけで満たしていた。
そうもなれば――この男装姿も、悪くないな、と思ってしまうほど、わたしは単純だったのだった。




