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「苦しく、ないのか……?」
体調を聞いているのはわたしの方なのだが、マグラルド様がこちらに尋ねてくる。いや、むしろ、先ほどまで『障り』に苦しめられていたからこそ、気になってしまうのだろう。
「快調、と言えば嘘になりますが……『障り』に触れるときはいつもこのような感じですから。そのうち治ります」
少なくとも、マグラルド様のようにはならない。はず。多分。
「――……マグラルド様」
わたしは彼の手を取る。ざらりと、手の皮が厚い、努力してきた人間の手。国民のために、生きてきた人間の、手。
「わたしに自由に生き、マグラルド様のために命を捨てないでほしいと言っておきながら、貴方様がそうであるのは、説得力がありません」
この場合、わたしのために命を捧げようとした、とはならないだろう。それでも、生きることを諦め、最期をわたしに託したことは、間違いない。
「わたしは、貴方様をお慕いしております。この命を捧げても、構わないくらいに」
でも――。
「……ですが、それを許してくださらないのなら、わたしと共に生きていくださいませんか」
マグラルド様のためなら、無駄死にだって喜べる。それでも、マグラルド様と一緒にいられるのであれば、それ以上のことはない。
一世一代の、求婚。
マグラルド様に触れている手が、情けないくらいに震える。手汗がにじんで、彼に伝わっていないだろうか。
「あ――、あの、でも、その、マグラルド様がこれから生きていくには、呪いを解除しないと考えると、『障々私動』という魔法を使える人間がそばにいることが不可欠と言いますか、ジュダネラルにはおそらくわたしか、辺境の土地に一人、二人使い手がいる可能性があるだけで、でも他国へと足を運べば他にもいるかも、いや、絶対こんな役を他の女に譲るのは絶対嫌と言いますか、うううう、違う、違わないんです、聞かなかったことにしてほし――」
「ペルアディア」
「はい、なんでしょう」
マグラルド様が何も言わず、妙な間ができてしまったのを埋めるように、言葉をまくしたてたわたしを、マグラルド様はわたしの名を呼ぶだけで、制した。
わたしはすぐに、言葉を止める。
「僕は、死なない、のか……?」
「ど、どうでしょう。お体の方は……?」
わたしは医者じゃない。だから、完全な断言はできないが、とりあえず、『障り』は少なくともなくなったように見える。その全てが取り去らわれたとは限らないが、少なくとも、マグラルド様が、わたしたちの冒険者パーティーに加入することになった頃ぐらいまでは、体調が戻っているとは思うのだが。
わたしの曖昧な返答に、マグラルド様はしばらく考え込んでいるようなそぶりを見せたが、ゆっくりと、片手で顔を隠し始めた。
隠しきれず、ちらほらと見える顔や耳は、赤く染まっていた。




