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この魔法は、人工地の『障り』を神与地に移すもので、浄化ではない。人工地から『障り』を移動させることで、結果として『障り』の量が減るのである。
ただ浄化するよりも簡単で、時間もかからないので、人工地と神与地の割合が半分から、人工地の方が少ない国で、ちょうど境界線で使われる魔法だ。聖女の数が少ない国では浄化に並んで『障り』を排除する選択肢に上がるものの、ジュダネラル王国では聖女の数がそろえられているし、移す神与地がほぼないので、不要だとされてきた魔法。
それでも、わたしはマグラルド様の婚約者になるため、片っ端から聖女魔法を覚え、身に着けてきたので、使えるのだ。
魔法で生み出されたものは『障り』が自然に浄化されず、同時に、マグラルド様の体が人工地と同じようにされている、というわたしの読みは当たったらしい。人工地の『障り』を神与地に移す要領で、マグラルド様に溜まった『障り』をわたしへ移すことができた。
ぞわぞわと『障り』を触るとき特有の気持ち悪さはあるけれど、苦しさや痛みが増していく感じはしない。少しすれば、きっと収まるだろう。
周囲に散った、マグラルド様に収まり切らなかった『障り』が消え始め、マグラルド様の髪が、元の色に戻り始める。それと同時に、マグラルド様が、目を開ける。
ばちり、と合った目線は、すぐ近くで。そりゃあ、おでこ同士をくっつけているのだから、当たり前といえばそうなのだが。
彼の目を、まっすぐ見られない。
「――お加減は、いかがですか」
わたしは、マグラルド様に動揺していることを悟られないようにしつつ、ゆっくり
と顔を離した。この距離は、心臓に良くない。
「ペル、アディア……?」
先ほどまで酷くせき込んでたからか、マグラルド様の声は、少しばかりかすれていた。
それでも、先ほどまで、死にそうだった弱々しい声よりは、幾分か、元気があるように思う。
「……髪、が」
「髪……、ですか?」
わたしは自分の髪を触ってみるが、普段のものと変わりがない。不思議に思ったが、先ほど、マグラルド様の髪色が『障り』の有無によって変わっている。
もしかして、と、髪を見ようとして、自分で見られる長さではないことを思い出した。
すぐそばに突き刺さっていたマグラルド様の剣の方を見ると、わたしの髪が黒く染まっているのに気が付く。マグラルド様の磨き上げられた剣はまるで鏡のようで、黒髪のわたしを反射していた。
「……なるほど」
本当に『障り』の移動は成功したのか。染粉を使って色を変えていたけれど、それよりも『障り』による変色の方が勝るらしい。でも、マグラルド様も『障り』が抜ければ色が戻ったので、わたしも放っておけば元の色に戻るだろう。それが、わたし本来の色なのか、染粉でつけた色なのか、どちらになるのかは分からないが。




