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マグラルド様と再会したとき。あの人は、普通だった。妙にせき込むところを見るようになったのは、一か月以上経ってから。ジュダネラル王国の王城から、ここまで来るのには、それなりに時間がかかる。追放刑に処されて、王城の馬や馬車を使えないと考えると、少なくとも、『障り』の呪いに侵されてから、今に至るまで、かなりの期間があったはずだ。
その間、死ななかったのは、『障り』の濃度が足りなかったから……?
『障り』はどこにでも発生する瘴気であり、害のある空気でもある。
『障り』は人間に直接悪影響を与えないとされているが、触れたときには気分が悪くなる。ということは、全く影響がない、というのもおかしな話。『障り』がない場所で聖女魔法を使っても、成功したのか判断が付けられないように、人工地のように『障り』が蓄積しないから、生き物に悪影響を与えない、と思われていただけではないだろうか。
人工地と神与地の違いは、それを自然に浄化できるか否か。
そして――人もまた、魔法によってつくられた生き物ではない。
本来の人間――いや、生き物は、神与地のように『障り』を自然に浄化できる能力があるのではないだろうか。だから、『障り』によって悪影響が起きるということはないのだ。
考えてみれば、今まで生活してきた中で、何かを魔法で操ったり、作業の効率化することはあっても、物質そのものを魔法で生み出すことは、土地以外で行ったことはない気がする。そもそも、そんな魔法が、存在しない。太古に、人工地という土地を生む魔法が発明されて以来、類似のものも研究されてきたはずなのに、その結果は出ていない。
『障り』が溜まりきった人工地が植物をはぐくめなくなるのは、土地として死んだから、と考えれば――……。
だとすると、今になって、『障り』の影響が出始めたというのは、現在のマグラルド様は、人工地と同じように、自然と『障り』が浄化できていない状況なのではないだろうか。
『障り』の呪いとは、人工地と同じく、『障り』の自然浄化が不可能になることを指す……のか?
だからこそ、『障り』に耐えられなくなったマグラルド様は、命を落としそうになっている。
「――、マグラルド様……ッ」
マグラルド様に確認を取ろうにも、まともに話せるだけの体力と意識が、彼にはない。
人工地と同じ、と考えるのであれば、浄化以外で何か、『障り』を減らす方法は……!
わたしの頭の中に、かつて調べた文献や、同僚の雑談や仕事の報告が、聖女としての生活を過ごしていた頃のことが、走馬灯のように駆け巡る。
――一か、八か。
わたしは、腕の中に抱いたマグラルド様の額に、わたしの額を押し当てた。
「――障々私動」
ずるん、と、嫌なものが、わたしの中に入ってくる感覚がする。ぞわぞわと、内臓を撫でられているような、吐き気が胸の奥で暴れているような、そんな感覚。
マグラルド様は、ずっと、こんな感覚で過ごしていたのだろうか。
『障り』をわたしに移しながら、そんなことを、思った。




