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この土壇場に、そんなこというなんて、本当の、本当に、それだけのために探していたの? わたしを? マグラルド様が?
「そ、そんなわけ……」
ストインさんが、疑わしそうに言うが、マグラルド様の表情に変わりはない。
何一つ、ごまかしのない、真剣な顔。
「追放刑にもなったんだ。僕がやり残したことなんて、このくらいで――」
「追放刑!? 聞いてないんですけど!?」
わたしは思わず声を荒げてしまった。
追放刑と言えば、ある意味で、王族や貴族にとっては死罪よりも重い。
死罪であれば、王族や貴族の血筋であったと、記録に残る。しかし、追放刑とは、身分をはく奪し、平民とした上で、国外に追い出す刑罰。仮にその刑罰の対象となった人物が、なにか功績を残していたとしても、その記録も全て消される。
文字通り、生きていた証が、全て抹消されるのだ。きっと、あと十年もすれば、王家に、マグラルド様という人間がいたことすら知らない世代が現れ、二十年、三十年もすれば、それが当たり前となる。
しかも、この刑罰は、国際的に見てもなんら珍しいものではなく、むしろどの国にもあるような、標準的な刑。よって、追放された後に、手厚く保護するような国はない。やってきたことを黙認してくれるのがせいぜいなくらい。
しかし、これならマグラルド様が一人で国境を越え、わたしたちの元へ姿を現したのも理解できる。平民は、護衛なんかつけない。
マグラルド様が追放刑に処されるのは納得できないけど。
追放刑、なんて言葉が出てくることに、ストインさんも予想していなかったのだろう。
その刑罰の重さを、彼も知っているはず。この国にも、追放刑はあるのだから。
それゆえに、王族であったマグラルド様が、追放刑だと言ったことに、真実味が増す。世界中どこを探したって、その場しのぎのために「追放刑になった」と嘘をつく王族貴族の人間はいない。
「――……全部、おれのしたことは、無駄だったと?」
ストインさんが、呆然としている。
「あの、冒険者たちをそそのかし、貴方を殺せば、まだ、大丈夫だと――」
「そんなことせずとも、国籍が違う以上、お前は逃げられる。今後、一切、沈黙を続け、今回の件を外に漏らさない限りは」
マグラルド様の言葉に、ストインさんは、力なく、黙りこんだ。
「ディ……ペルアディア。彼を開放してくれ」
「えっ、でも……」
今、彼の拘束を解いてしまっていいのだろうか。せっかくリリリュビさんが縛り付けてくれたのに。
「彼の目的は、逃げるためだったようだからな。……もう、構わないだろう」
「……、…………」
ストインさんの顔を見れば、マグラルド様の言っていることが正しいのか、そうでないのか、一目瞭然だった。




