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わたしという聖女を辞めさせ、果ては聖女であるという嘘をついてまで、マグラルド様の婚約者になりたがった彼女。なんのお咎めもなし、とはならなかっただろうけど……。まさか、ここにつながってくるとは思わなかった。
イーヴル伯爵家は王妃となる令嬢を輩出し、所有する土地に国を支える鉱山がいくつもある。さらには、ジュダネラル王国有数の、神与地も領土の一部。伯爵家にしては過分な権力を持っていたが……まさか、こんな物騒なことを考えていたなんて。
捕らえられて処罰を下された、ということは、国王が考えていることではなかった……のかな? いや、王族がまったく絡んでいないとも考えにくいけど……。
そのあたりの駆け引きは、わたしには分からない。
確実なのは、イーヴル伯爵家が『障り』を利用して神与地を奪おうとしていたこと。そして、ストインさんがその協力者であったこと。
全て、そのたくらみ、計画は失敗に終わっている、ということ。
「そういうわけだ。――……今ならまだ、お前のことは『なかった』ことにできる。他国にいる共犯者は全てその足取りがつかめたわけではない」
そこ言葉に、わたしは思わずマグラルド様とストインさんを見比べてしまった。
ここで、マグラルド様が証人として出頭すれば減刑もありえる、と言わなかったことに、わたしは驚いた。その提案をしなかった、ということは、ストインさんはジュダネラル国民ではないということだ。他国の人間に共犯者がいた場合でも、自白をうながし、証人となれば罪が減刑される、というジュダネラル王国の法律は適応される。
でも、そうなれば、今回の件は明るみに出るわけで。
ジュダネラル王国が、事件の全て、イーヴル伯爵家のたくらみを余さず隠したいのなら、今回は非常に都合が悪い。下手に証人として呼び出すよりも、なかったことにしたいに違いない。まだ、情報を追い切れていないのなら、なおのこと。
「何を馬鹿なことを」
しかし、ストインさんはマグラルド様の言葉を、鼻で笑った。
「貴方様は、その自らの呪いをどうにかするために、聖女ペルアディアを探していたのでしょう? そして、健康体になり、事件をさらに追うつもりだった。なら――何をしたところで、おれが無事でいられるわけがない」
「そんなことはない」
マグラルド様はすぐに否定をする。
ただ、ストインさんが無事でいられる、と疑っていることそのものへの言及、ではなかった。
「僕はただ、ペルアディアの無事を確認したかっただけ。それだけだ」
マグラルド様の言葉は強く、先ほどまで息を上がらせ、弱々しかった人とは思えないほど、しっかりとしたものだった。
「――……えっ?」
一拍遅れて、マグラルド様の言葉を理解したわたしの、なんとも間抜けな声が、部屋に響いた。




