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「早く話を終えて、マグくんの治療をしないと、どのみち死んじゃうんじゃないかな」
わたしに賛同してくれたのは、いつの間にかこちらに来ていたマルコラさんだった。……あの木の上にいたのが本当にマルコラさんだったというなら、あそこからここまで来られるだけの時間を失っているということに他ならない。
「それに、最期に愛する人と共にいたいというディーくんの願いも叶えてあげたいよね」
それは説得になりえるのか? わたしの「勝手に殺さないでください」という言葉と、ザフィールの「こんなときまで変わらねぇな……」という言葉が、被った。
「……まあ、結構騒ぎになっちまったからなぁ。他の奴らもそろそろ来るだろ。人に聞かれたら困る話なら、野次馬を増やすわけにもいかないよな」
ザフィールが、そう言ってくれる。確かに、今日は宿に泊まっている人が少ないみたいだったけれど、これ以上騒ぐようならば、他に人が来てもおかしくない。というか、時間の問題で来る。
「――……分かったよ」
リリリュビさんは立ち上がって、納得してくれた。身じろぐストインさんの、縛り付けている手足を、更にベッドの足に括り付けた。素早過ぎて、目で追えない。
「何かあったら、すぐ呼んでね。……次は、絶対聞かないから」
そう言って、リリリュビさんは、ザフィールとマルコラさんを連れて、部屋を出て行ってくれた。
「はっ……、ありがたい話だ。僕を心配してくれる人が、これだけ増えたとはな。いや、僕が気が付けるようになっただけか」
弱々しく、マグラルド様が言う。その横顔は、なんだか少し、さみしげだった。王城に残してきた、警備隊や護衛の近衛兵たちのことを思い出しているのかもしれない。マグラルド様は気が付いていないだろうが、あの人たち、警備隊というよりは親衛隊だったからね……。マグラルド様が知らない水面下で、結構他の警備隊とバチバチやりあっていた。
「……彼らにも、顔向けできないような、ことはできないな」
そう言って、マグラルド様は姿勢を正す。
「――イーヴル伯爵家は、取り潰しとなった」
マグラルド様の言葉に、びくり、とストインさんが肩を跳ねさせる。
「イーヴル伯爵家の人間はまだ生きているが、全て捕らえられている。領地も、既に再分配が終わった。お前に連絡できる人間が一人も残っていないからお前は知らないだろうが。……このようなこと、国の外にも漏らせないからな」
「イーヴル伯爵家……」
その名前に、わたしは聞き覚えがある。いや、聞き覚えがある、なんてもんじゃない。
わたしをマグラルド様の婚約者という席から引きずり下ろした令嬢の生家、そのものだ。




