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「マグラルド様……ッ!」
呆然と彼の姿を見ていると、マグラルド様の美しい金髪が、じわり、じわり、と黒く染まっていく。
なんだ、これは。何が起こっているの……?
「――ッ、はな、れろ……ッ、ペルア……ディア……ッ!」
息も絶えだえに、マグラルド様がわたしを突き飛ばす。しかし、力が全然入っていなくて、マグラルド様を心配してしゃがみこんだわたしに、しりもちをつかせるだけにとどまってしまった。
――パリン!
背後で、ガラスが割れるような音がする。バッと振り返れば、そこから、一人の男が、窓から侵入しようとしていた。
その顔には、見覚えがある。
わたしたちを、森の中へと案内した男。ストインさんだ。
しかし、彼の視線は、鋭く冷たい。
「な、なに……?」
分からないままに、わたしは、マグラルド様とストインさんの間に入り、マグラルド様をかばうように、体で彼を隠す。
「ああ……まだ生きていらしたのですね。しかも、まだ立ち上がるとは、流石です」
ストインさんの言葉に振り返ると、壁に立てかけていた剣を杖のようにして、マグラルド様が立ち上がっていた。
「マグラルド殿下、無理をなさらなくてよいのですよ。……いえ、もう、殿下ではありませんね」
「――ッ、余計な、ことを……ッ」
わたし越しに、二人で会話が展開される。わたしは、マグラルド様から『障り』が吐き出されたところからすでについていけていないのに――まるで、この二人にとっては、今の状況が予定調和であるかのように、何も驚くことなく、話が進められていた。
「全く、あの男どもが死にぞこない一人仕留めきれないとは。いやはや、冒険者の青石級とは、大したことがないのですね?」
嫌な笑みを浮かべるストインさん。あの男ども、とは、言わずもがな、あの素行に問題がある冒険者パーティーなのだろう。
いや、今、そんなことはどうでもいい。
「死にぞこないって、何……?」
今の話では、まるで、マグラルド様が――。
「聞くな、ディアンッ!」
ペルアディアではなく、その名を呼んだことに、わたしは一瞬、反応が遅れる。
わたしよりも先に言葉を発したのは、ストインさんだった。
「ディアン? おかしなことを。彼女は、聖女ペルアディアではありませんか」
「――!」
この人、わたしのことを知っている……?
先ほどから、驚く表情しか見せていないわたしのことが面白いのか、ストインさんは、くつくつと笑いながら、わたしを見る。
「聖女ペルアディア、王城聖女である貴女であれば、今、マグラルド様を侵しているものが何か、分かるでしょう?」
わたしの背後で、「何も、聞くな!」と、マグラルド様が叫ぶのが分かる。
でも、わたしの耳には、届いてしまった。
「今、マグラルド様は『障り』に呪われているのですよ」
その、言葉が。




