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――わたしが生まれたのは、ジュダネラル王国の王都からかなり離れた、とある農村。王都の食料を支える、と言うほど大規模な豪農がいるわけでもなく、かといって、農家にもかかわらず自分たちの食に困る程飢饉にあえいでいる貧村でもなく。
わたし自身、何一つ、特別だと思えることはなかった。唯一言えるとするならば、農家にしては珍しく、一人っ子だったことだろうか。周りは兄弟姉妹が何人もいる、というのが当たり前だったけれど、わたしの家だけは、子供が一人。
でも、そんなこと、国全体で見れば、何一つ珍しいことでもない。
それなのに――わたしには、聖女の力があった。しかも、領主様に仕える程度の物ではなく、王城に取り立てられるほどの、強力な力が。
それでも、わたしは王都に行くことを、嫌がった。仲のいい両親と離ればなれになるのが嫌だったのだ。
王都とわたしの生まれた農村は、馬車を使っても、三日はかかるような距離。しかも、その馬車すら、貴族御用達の強い馬で、平民が使うような安い馬では、運が良ければ五日、最悪一週間もかかる。
そこまで離れてしまえば、もはや、二度と両親に会えなくなるかもしれない。何かあったときに、すぐに駆け付けられない。
親の死に目に会えない、なんて可能性は、十二分にあった。
両親も同じことを考えたようで、王城からの使者に、「せめて娘が成人するまで待ってもらえないか」と何度も頼み込んでいた。
でも――人工地の『障り』の問題は、人工地を持つ国ならばどこも深刻で。ことさら、国土の九割以上が人工地のジュダネラル王国では、有能な聖女を何年も放置できるだけの余裕はなかった。
あの日――わたしの両親は、王城の使者に殺された。
具体的に、誰が、いつ、とは分からない。
それでも、王家の使いが両親を説得する間、近所の家に避難していたわたしが、家に帰るとき――わたしの家は、燃えていた。家だけじゃない。農具や荷台をしまっていた納屋や、街への馬車を引いてくれる馬がいる厩まで。
全てが、炎に包まれていた。
わたしの、幸せがつまっていた、全てが。
今思えば、見せしめのような意味合いもあったのだろう。王命に平民が逆らえば、どうなるか、ということへの。
全焼した我が家からは、何一つ、見つからなかった。人のような形をしたものは見つかったけれど、それが、父さんと母さんだと魔法て鑑定もされたけれど。
わたしの幸せは、失いたくなかったものは、何一つ、見つからなかった。




