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わたしは、片足を軽く引き、膝を曲げて頭を下げる。貴族女性のカーテシーとは違い、スカートを軽く持ち上げるのではなく、胸元に手を当てるのが、ジュダネラル王国の聖女の礼。
『障り』のある土地へとあちこち行かねばならない聖女の制服は、貴族女性のようにふわふわ、ひらひらとしたドレスのようなスカートが存在しない。洗濯も持ち運びも大変なのだ。そのため、このような独自の挨拶になったという。
この礼の意味を、マグラルド様は知っている。昔と違い、髪を切って染め、瞳の色も声も変えたわたしが、ジュダネラル王国の聖女であったことを伝えられる方法。
聖女魔法を使うこともできるが、『障り』の溜まっていない土地では、成功したかどうかが分かりにくい。
「ペル、アディア……」
わたしが聖女であることの証明は、できたらしい。マグラルド様の顔には、驚きこそあれ、疑うような感情は何も見られない。
「わたしを探していたのであれば、お分かりかと思いますが、この土地では、女性の働き口は非常に少ないのです。それゆえ、男のような恰好をして、貴方様にすら、正体を隠しておりました」
本当は、それだけじゃないけれど。
ただ、嘘でもない。
「それで、マグラルド様。わたしに、何の御用でしょうか」
ここまで来たら、もう、何も隠すことはないし、大人しく従う。
マグラルド様が望めば、国に戻って再び聖女として働くこともやぶさかではない。
マグラルド様がいない、あるいは、マグラルド様がわたしではない女と結婚するのであれば、話は別だが。
戻ってきてほしい、と。
もう一度、聖女として働いてくれないか、と。
そう、言われると思っていた。
でも――。
「……怪我や、病気はしていないか。体に傷跡が残ったと聞いたが、今は痛くないのか」
――マグラルド様は、そう、優し気な声で問うだけ。
「しょ、職が職ですから……。多少はありますが、傷が残るようなものは、なにも」
「だが、体に傷跡があるから、見られたくないと」
「それは、女の体を隠すための方便で、実際に傷はありません」
……何だろう。
なんで、こんなにも、優しく、わたしの心配をされているのだろう。
わたしの健康を聞き出したマグラルド様は、そのまま、それ以上何か言うことはなかった。
……えっ、もしかして、本当に、わたしを一目見るためだけに、あんなに頑張ってたの? 無事を確認する、というのは、わたしに逃げられないための嘘ではなく? わたしを連れ戻そうとしている男がいると知られたら困る、とか、そういうのではなく?
ほ、本当に……?




