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こうして、わたしたちは元の街へと戻ってきた。リリリュビさんもザフィールも、ずっと落ち込んでいるような性格じゃないので、比較的、すぐにいつも通りへと戻った。
ただ――マグラルド様だけは、明らかに、気落ちしている。
真顔なのは変わらないけれど、態度があからさまに暗い。冒険者として生きていくためには、依頼をこなしていかないといけないので、そのときにはしっかり仕事をしているが、それ以外のときは、あの冒険者パーティーを探したり、聞き込みを続けたりしている。
その姿は、以前と変わって、露骨になっている。あの街へと行く前は、気が付かなかったくらいだったのに、今では、最低限の食事と睡眠、わたしたちとの冒険者活動のとき以外、姿を見なくなってしまった。
そんなマグラルド様を見ていて――ついに、わたしは黙っていられなくなってしまった。
今更何を、と思うかもしれない。
どうして最初から言ってくれなかったんだと、きっと非難されるだろう。
それでも、今の彼を、わたしは見ていられなかった。本気で探していないのかも、なんて思っていた頃とは、まるで状況が違う。
もはや、冒険者として生活していくのが難しくなったとしても、マグラルド様への未練がましさを知られたとしても、それ以上に、マグラルド様を騙し続けられなくなっていた。
夜。わたしは、マグラルド様の借りている宿の部屋の前に立っていた。
立っていた、けど……。
――え、なんて言おう。
わたしは言葉に困り、部屋の扉の前で立ち尽くしてしまった。
本当のことを言うつもりでここに来たのに、なんて白状したらいいのか分からなくて、この扉をノックできないでいる。
やっぱり内緒にしておこう、なんてことは思わないんだけど……完全に彼へわたしの正体を明かすタイミングを逃した気がする。
ノックをしようと手を上げては、脳内のシミュレーションが上手くいかなくて、言葉をちゃんと探すために手を下ろす。
そんなことを、もう、何度繰り返しただろうか。
わたしが迷っているうちに――扉が開かれた。起きていたのか、マグラルド様の服は、寝間着ではなく、昼間に着ていたものと変わらなかった。
「……ずっと誰かがいると思えば、君だったか。何か用か?」
気配でバレていたらしい。まあ、わたしはリリリュビさんやマルコラさんみたいに、気配を消すことができないし。
ずっと言葉を探していたけれど、もはや逃げ場はない。
「――少し、話がしたいんだ。今、いいかな」
初めて『障り』を浄化するために、穢れた地へと足を運んだとき以上の緊張が、わたしを支配していた。




