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数秒の沈黙の後、リーダーの男が言ったのは、「言えない」という言葉だけだった。
「言えない、だと――ッ」
マグラルド様が、一気に男との距離を縮め、リーダーの男の胸倉をつかむ。リーダーの男は、剣を取りこぼした。
「知っているんだろう! 何か、少しでもいい! 知っていることを教えてくれ……ッ!」
見たことがないほどの取り乱しよう。いつも真顔で、冷静で、ちょっと威圧感のある彼からは想像できないほど、焦燥に満ちた表情をしている。
この人は――本気で、わたしのことを探しているんだ。
わたしとの婚約をあっさり破棄したくせに、今更執着する理由は分からない。それでも、ただ、この人が、わたしを見つけることに、必死になっていることだけが、真実だ。
「もう、時間が――、ッ!?」
マグラルド様めがけて何かが飛んでくる。それにすばやく反応し、男の胸倉をつかんでいるのとは逆の手でもって、剣を振り、それを叩き落そうとする。
しかし、それは悪手だった。
「なんだ……ッ」
マグラルド様の剣に当たり、割れたそれは、目くらましの玉だった。あっという間にあたりに視界を奪う粉が舞う。加えて、男たちの誰かが魔法を使ったのだろう。不自然な風が巻き起こり、あっという間に目を開いているのも困難になる。
少し離れた場所で様子をうかがっていたわたしたちの方まで、粉が飛び、視界が悪くなっているのだ。目くらましの玉に直撃したといっても過言ではないマグラルド様は、もっと分からなくなっているだろう。
「ああ、くそ! ――旋風回起!」
横で、ザフィールが詠唱し、空気の流れを操って風を新たに巻き起こす。男たち側の魔法と拮抗しているのか、すぐに視界が晴れることはない。びゅうびゅうと、風が吹き、わたしはついに目を開けていられなくなる。
「――、待てッ!」
何も見えない中で、マグラルド様が叫ぶ声だけが聞こえる。少し遅れて、バタバタと、足音のようなものが聞こえてきた。
――逃げられた。
見えなくたって、分かる。マグラルド様は男たちを殺したわけではなかったから、力を振り絞って、リーダーを助けるべく動いた人がいたのだろう。マグラルド様にあんなにも思い切り叩きのめされていて、まだ体力が残っている人がいるとは思わなかった。
足音が聞こえなくなり、ザフィールの魔法のみが残り。魔法の風が一つになった瞬間、すぐに粉が外へと飛ばされる。ようやく目が開けられるようになって、視界が明瞭になる。
しかし、そこに残っている男は誰もおらず。
膝をついて、頭を下げているマグラルド様だけが、そこにいた。




