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わたしたちは、宿の二軒隣の酒場に移動し、少し早めの夕食を取りながら、リリリュビさんの報告を聞いた。
聞いた、けれど……リリリュビさんが持ってきたペルアディアの情報は、なんとも微妙なラインだった。
ジュダネラル王国の王城聖女をしていて、王族と婚約していた、気の弱い聖女。貴族には二つ返事でなんでも了承する、仕事中毒の女。
そんな情報。
間違ってはいないけれど、わたし本人しか気が付かないような食い違いが、ちらほらと見られた。聖女自体にこなしていた仕事内容が、微妙に違う。浄化のために訪れた土地に滞在していた時期とか、出席していた夜会の話とか。
おそらくは、わたしだけが気が付いている。本人だから、当たり前と言えばそうなのだが。
ささやかな誤差、と言える情報ではあるけれど、それでも、そんな情報がいくつもあれば、その情報は確かなのか、と疑わしくなる。一つ、二つくらいなら気のせいや勘違いで済んだだろうけど。
でも、ただでまかせを言っているだけではないのは分かる。明らかに、ジュダネラル王国の、王城内の事情や聖女のしくみ等を理解している人間でなければ知りえないことばかり。
だからか、マグラルド様はすっかり信じ込んだようで、表情が明るい。
わたしは逆に、どんな人間から情報を聞き出したのか、気になって仕方がない。リリリュビさんが一人で行動していた、というあたりから、あんまり合法的な臭いはしないけど……でも、本人が無傷で帰ってきているのだから、そこまで危険な真似はしていないのかも?
「それでね、明日、そのペルアディアって聖女が住んでいる家に案内してくれるんだって」
「――えっ」
わたしは思わず、声を上げてしまった。慌てて口元を抑える。じっとザフィールがこちらを見ているのは、余計なことするな、という、牽制の意味もあるのだろう。
でも、わたしが気にしているのは、そんなことじゃない。
ペルアディアの家を紹介するだなんて、絶対に罠に決まっている。
だって、わたしは今ここにいるし、そもそも、家を所有していない。冒険者として稼いだお金で、その日宿を取るような生活をしている。
だから、住んでいる家に案内なんて、できようがないのだ。
危ない、と言いたいけれど、今、ここで言う勇気はない。わたしの素性を全てばらさないといけないから。
それとなく話を逸らそうとするのはかなり難しいし、そもそも、ザフィールがいい顔をしないだろう。聖女とマグラルド様が再会し、幸せになろうとするのを妨害しているようにしか見えないから。
何も言えないで黙って食事をしながら成り行きを見ていると、明日、わたしたちはその情報提供者に会い、ペルアディアの家を尋ねることになってしまった。




