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「隠すものがあるのだろう。これを使うといい」
「……あ、ありがと……」
マグラルド様の上着を借りるなんて恐れ多いが、今は緊急事態。背に腹は代えられない。大人しく受け取ろう。
マグラルド様の上着は、彼の体格に見合ったもので、わたしの体はほとんどすっぽり覆われてしまう。流石にワンピースのように、とまではいかないが、お尻のあたりまで隠れているし、袖を通せば、かなり手を出すのに苦労する。
濡れた服が完全に隠れたので、マグラルド様の方を見れば、彼は全く濡れていなかった。わたしの足元を見れば、わたしの足元から前の方に大きな水たまりができている。もう数歩後ろに下がっていればわたしも濡れることはなかったのだろう。
なんて運の悪い……。いや、マグラルド様に上着を貸してもらったのだから、逆にラッキー? いや、そんなことないか。男装がバレるかも、となったときは、本当に終わったと思ったのだ。
仮にまたマグラルド様に上着を貸してもらえるとしても、絶対に水はかぶりたくない。
「ディアンだけ先に宿に戻るか。残りは僕が聞き込みをし、ザフィールたちと合流しよう」
「でも……」
わたしだけが先に戻るなんて。情報が出ないと分かっていても、一人にするのは失礼ではないだろうか。
「気にするな、風邪をひく前に宿へと行け」
「…………」
確かに、多少薄着でも寒さを感じない季節ではあるけれど、これだけびっしょりだったら話は別だ。それに、これから夜になっていくのだから、気温は下がる一方だ。
「本来なら、僕が探している女性なんだから、僕が一人で探すべきだ。助力してしてくれて感謝している」
「……分かった」
あまり食い下がってもいいことはないだろう。わたしはおとなしく、引き下がることにした。
広場で別れ、わたしは宿に戻る道へ、マグラルド様は広場で聞き込みを。
広場から出る前、思わず振り返ってしまえば、やはり話しかけるのに苦戦しているマグラルド様がいた。でも、いろんな人に声をかけるのを諦めていない。
マグラルド様が何を考えてわたしを探しているのかは分からない。
それでも、このままわたしの正体を黙り続けていてもいいのだろうか。
冒険者を続けていくのなら、女だとバレるのは圧倒的に不利。魔法職のわたしは、力がないから、何かあったときに暴力で解決できない。
それに、わたしがジュダネラル王国からこんなにも近い街に居続けて、未練があると知られてしまったら、嫌われるかもしれない。
だから、自分のために黙ってきたけれど。
わたしを探すのに必死になっている彼を見て、わたしは、それが正しいのか分からなくなっていた。




