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わたしが我に返ったのは、マグラルド様に「冷めるぞ」と言われてからだった。いつの間にか、わたしの手には肉だね串があった。マグラルド様がわたしに握らせたのか、それともわたしが無意識のうちに受け取ったのか。全く記憶にない。後者だとは思うけど。
ほんのりと湯気がただようそれを見て、何か言うよりも先に、わたしは、ぱくり、と口に入れた。
わたしが以前食べていたものよりも、若干、塩味が強い。それでも、懐かしい味に変わりはない。
「ディアン……?」
わたしが肉だね串を食べていると、マグラルド様が、わたしの名前を呼ぶ。
まずい、わたし、お礼言ったっけ? 何も言わずに食べ出した気がするな……。
わたしが口を開く前に、マグラルド様が、わたしに手を伸ばす。口元にタレがついてしまったか、と思ったが――違った。
彼の手は、わたしの目じりをぬぐう。
「何か、問題だったか」
そう言われて、わたしはようやく、自分が泣いていることに気が付いた。
わたしは慌てて少し距離を取り、自分で目をこする。肉だね串を食べて、急に泣き出すなんて、気が触れたと思われてもおかしくない。
「ち、ちが……。ごめん、なんだか、懐かしくなって」
一度泣いていることを自覚すると、ぼろぼろと、涙が止まらない。悲しくないはずなのに、もう、割り切ったはずなのに。
「――……これね、ボクにとっては、思い出の味なんだ」
わたしは目をこすり、何とか泣き止もうとしながら、彼に説明する。
「ボク、農村の生まれでさ。週に一度、採れた作物を両親と一緒に市場に売りに行くんだ。その帰りに、必ず買ってくれて……」
今でも、鮮明に思い出せる。
納品した野菜がなくなった馬車の荷台に母さんと二人で乗って、父さんは馬に乗って。出発する前に父さんが一口食べて、後は母さんと分け合いながら、エンテレ鳥の肉だね串を食べる。
三人で分けるような大きさの串じゃないんだけど、一緒の物を食べるのが嬉しくて、わたしはそれが大好きだった。
今日の夕飯は何にしよう、とか、わたしが収穫した野菜が綺麗だとほめられた、とか。そんな話をしながら、ゆっくり村に帰る。
わたしが、一番幸せだと思っていた時間。
「ただ――もう、父さんも母さんも、いないから」
鼻をすすり、わたしは肉だね串を、もう一口食べる。
あれから、何度もエンテレ鳥を食べたのに。こんなにも心が揺さぶられるのは、他でもない、マグラルド様に渡された肉だね串だから、だろうか。
「……すまない、辛いことを思い出させたか」
暗い声音のマグラルド様に、「ううん!」となるべく明るく聞こえるように声を返す。
「随分昔のことだから。むしろ、なんだか湿っぽくしちゃって、こっちこそごめんね」
わたし自身、今更泣くとは思っていなかった。
「これ、ありがとうね」
マグラルド様にお礼を言い、わたしは肉だね串を食べ進めた。




