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わたしを探しに来たのは、一目無事にを確認したいからじゃなくて、本当はわたしの力が必要だからなのではないのだろうか。
マグラルド様が嘘を吐く人だとは思わないけれど、民思いの彼なら、国民のためにその生真面目さを捨てることができるとも分かっている。
わたしがジュダネラル王国を出たことで、何かあったのかもしれない。
わたしがジュダネラル王国に残ることを不都合だと思った伯爵令嬢にやりこまれてしまってジュダネラル王国を出ることになったけれど、本来なら、わたしほどの聖女が、そう簡単に国を出られるわけがないのだ。わたしを排除するために本気を出した伯爵家に、元々平民のわたしが勝てなかっただけ。そういう駆け引きが何一つできなかっただけで。
自分で言うのもおこがましいが、わたしはジュダネラル王国歴代の聖女の中でも、一、二を争うほどの力を持っている。そのはずなのだ。
でなければ、あんな――。
「そう、だな。僕にはもったいない女性だった」
「――……はぇ」
なん、え、なん……えっ?
今なんて……?
混乱するわたしをよそに、マグラルド様は、ハッとした様子で「い、いやなんでもない。忘れてくれ」と慌てたように言葉を続けた。その様子は、照れなどではなく、単純に、焦りのようなものを感じる。多分、王族であることをほのめかすような発言をしたと気が付いたんだろう。
ジュダネラル王国だと、王城聖女は王族と結婚するけど、神与地では聖女の需要がかなり低いから、王族どころか貴族と結婚することすら難しい。ここ、ライノートル公国では、聖女魔法が使えるとしても、平民ならば同じ平民と結婚するものだ。
だから慌ててごまかす必要もないんだけど。ディアンは神与地出身設定だから、うろたえた方が逆に怪しく見えますよ。
なんて、現実逃避のように考えたところで、わたしの脳内には先ほどのマグラルド様の言葉が、何度も繰り返されている。
僕にはもったいない女性。
本当に、今、マグラルド様がそう言ったの?
さっきまで考えていたことが、余裕で全部吹っ飛んだ。なに考えてたんだっけ?
駄目だ、マグラルド様と一緒になると馬鹿になる……。先のことも、前のことも、何も考えられなくなって、マグラルド様だけのことを考えてしまう。
こういうのやめようって、一人でも生きていけるようになろうって、国を出るときに思っていたはずなのに、すっかりジュダネラル王国で聖女をしていた頃に逆戻りだ。
しょうがないじゃない。わたしは、この人が好きなんだもの。
わたしが何も言えないでいるのを、何か勘違いしたらしいマグラルド様は、「……あれを買ってこよう」と屋台の方へと言ってしまった。
マグラルド様がいなくなっても、あの言葉の衝撃を抑えきれなくて、わたしは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。




