第38話 絶技 vs 猫技
「どうする!? 爪ちゃん! 私達これ…… 大 ピ ン チ !!」
様々な思考が瞬時に脳内を駆け巡り、咄嗟に口を衝いて出たのがこの言葉だった。
だってホントにそうとしか言えないわよ これは……。よりにもよって万超が〝お憑かれ様〟になってしまうだなんて……。
〝お憑かれ様〟──取り憑かれてしまった人や動物の総称。魔邪者に憑依されると皆、決まって疲れきった様子に見えることからこの名が付いたという、〝お疲れ様〟とのダブルミーニングなわけだけれど、それもそのはずで──
〝お憑かれ様〟は自我を失った上に、食事、睡眠を一切取らなくなり、ただただ生ける者を襲うだけの存在と成り果て、いずれは餓死や衰弱死という結末を迎えてしまう。
そして自身のそんな最後というのはやはり、未練や無念を抱かせるには十分な根拠たり得、新たな魔邪者となってしまう──というわけだ。
つまり……このままだともう、万超の未来は決定してしまっている──けど、ふざけないで! そんなこと 絶対にさせるもんですか!
──って、言いたいところなんだけど、魔技が使えない今の私には出来ることがほとんど無い! ああ もう!
本来の対処法としては、まず──取り憑かれた者の身の安全を最優先。
次に対象の周囲を厚い、水のシャボン玉のような魔技で覆ってしまう。こうすることによって、魔邪者の放出する〝忍惨禍嘆素〟を消費し続け、憑依継続が困難になるまで弱体化させることができる。
最後に身体から離れたところを狙い撃つ──ってのが定石なんだけど……。
そもそも目の前の魔邪騎士……強さもさることながら溢れ出す魔素の量も尋常ではないし、まさに規格外と言っていい特別な魔邪者。例え魔技が使えたとしても果たして、この方法が通用したかどうか……。
「ニャオオォォォォン!」
爪刀が遠鳴きをしてデカデッカ形態に。そして私を見るその目が、背中へ乗れと言っている。
『キュピッ』
こんな状況だってのに……私が出来ることといったら、こうして爪刀の背中に……護られるように乗せてもらうことだけだなんて……。
────いけない。
無力感に飲まれてしまう。
私……この気持ちって大っ嫌い!
だって……
うずくまってしまうもの……
そして根が張り、その場から動けなくなってしまうんだ。
知ってる……
こんな一頭身にされてから五年間……ずっとそうだったんだから……。
そこから突然引き上げてくれた……救い出してくれたのが……このモフモフ、フワフワの爪刀と──そして万超、アンタなんだからね! そうよ! 凹んでる場合じゃない、絶対になんとかしなくちゃ! ふんっ! ふんっ!
よし! 元気 出てきた! うん──いつもの私だ!
「ニャアッ!」
「そうだね ゴメン! ちょっと情けない顔見せちゃってたね!」
グッとお腹に力を入れ、改めて魔邪騎士を見据える。
「────っ!!」
完全に顔を覆った岩兜に一瞬浮かび上がった無表情な顔……大きく見開いた眼はこちらを凝視していた。
前に万超が言っていたっけ……確かにこれは……背筋が凍るわね……。
「シャアアアアッッ!」
わかるよ爪刀、その気持ち。
私は再び思考を巡らせる。現状の打開──万超を解放するには……選択肢は多くはない、ってか思いつく方法はひとつしかない!
「聞いて! 爪刀は万超が首から掛けている勾玉を鉤爪で狙って! 魔邪騎士は勾玉に取り憑いているし、それはそのままアイツの急所──蘇芳色の炎の場所でもある──岩鎧で護られているから難しいとは思うけど! あと、万超の身体は傷つけないように気をつけて! 爪刀のツメ、強くなっているから! 以前とは比べ物にならないくらいに!」
「 ニャッッ! 」
「私は……どこでもいいから引っ叩いて、文字通り──あの寝坊助を叩き起こしてやるわ! この作戦で突破口を開くわよ!」
「 ニャアァッ! 」
カラ……ン コロ……ン
鎧万超が地面に散乱した樹岩の破片を掻き分けるように踏み締め、下駄の音を立てながら……ゆっくりとこちらへ歩みを進め始める。
「頼りは爪刀の絶技! 準備はいい!? まずは息を大きく吸って!」
「ニャア! シャアアアアァァァッ!」
「ん! 違うよ! 吸うの! 息 吸うんだよ!?」
「 ニャッハアァァァァァァッ! 」
「吸うんだってば!」
「ニャ?」
ああ! この子ったら! 小首を傾げて不思議そうにしているその仕草! 顔! なんて可愛いの!
ギ ュ 〜 ッ 。
ハッ!? ダメよ私! 思わず背中から抱きしめている場合じゃないわ! こんなことしてたらすぐにでも鎧万超が──
「────っ! 爪刀 上っ!!」
ブ ン ッ ! ブ ォ ン !
直上から木神刀での薙ぎ払う二連撃──爪刀がかろうじて躱し、なんとか距離をとる。
「上からってなによ……人の身体に取り憑いた状態でも空中を自由自在ってわけ!?」
それともまさか 今の絶技!? だとしたら厄介極まりないわよ!?
ブンッ! ブンッ!
「……素……振り……? なにかを訝しがるように──そうか! アイツ、絶技は使えないんだ!」
さらに数回ただの素振りをした後、両腕をダラリと垂らし、極端な猫背の姿勢で首だけがこちらを向いた。
「……とはいえ──
グ ア ッ ッ !
──この速さはシャレにならない!!」
今度は真っ直ぐに突進して来た鎧万超。万超とは違い、片手で振られる高速の剣──絶技がなくてもこんなの、一発でももらったら骨まで砕け── う わっ 爪刀 の 避け 方が な んか ロデオみた い にっ!
ッイィィィィィィィィィィィィン!!
「 ッグゥゥゥッ!? 」
木神刀と鉤爪による剣戟の音が一際高く鳴り響いた刹那、鎧万超が苦しそうな呻き声を上げた。
「オ……のレ……コの音 ハ……」
また……喋り出した……? いいえ、それより雰囲気が……変わった? さっきまでの憎悪の塊みたいなオーラが消えて……。木神刀と鉤爪、神気を帯びたモノ同士が生み出した音……魔邪者はそれが苦手!? だったら──
「爪刀、木神刀を奪い取りましょう! そして鉤爪で今の音をもっと! アイツを弱体化出来るかも!
「ニィヤァーッ!」
ズズズッ……
あーっ! 鎧万超のヤツ、木神刀を岩で覆って大岩剣に──どころか、また騎兵槍!? それ、ホントに鬱陶しいんですけど! あれ? でも数は二本だけ……? ははぁ……やっぱり今の音、鎧万超 嫌いなんでしょ。万超の身体を支配することに集中してるんでしょ!
ズッ ズンッ!!
騎兵槍が上空から斜めに突き刺さり、避けたところへ大岩剣で斬りかかられる。
爪刀はそれらを受けず、身を翻し──躱すことに徹しているみたい。
そう い えば 細かくバ ラ けて ブツけ る 攻撃も あっ たわ ね! それ を 警戒 してる の かしら? とにっ かく私 は 振り落と さ れない よ うに しないとっ!
「爪 刀っ こん な 時にっ──っなん だけど 名 前っ 考え──たの 私っ!」
「ニャッ!?」
ヒュンッ! ズッ! ザンッ!
「万超 と 爪刀っ どっちも 絶 技 じゃ つまん ない でしょ! だ から 名 前っ キミのは その ものズバリ 〝 猫 技 〟 っ なんて──どうかな っ?」
フルフルフルフル──ブイィィィィィィィン!
「 ニィーーヤァァァーーッッ! 」
長いシッポが回り出したと思ったら、爪刀は勢いよく宙へと飛び上がった。
「気に入った!?」
「ニャア! ニャア!」
「よかった!」
追ってくる騎兵槍、そして鎧万超。シッポプロペラは確かに速いけれど、どうしても軌道が一直線なので動きが読まれてしまうのが難点……って、そうよ! 神獣形態で空を疾走ったあの技、今なら猫技で──!
爪刀が攻撃を避け続けてくれている間に、私は技の出し方を伝えようと試みる。
「あくまでも万超の〝絶技〟──その発動方法よ。〝猫技〟にも当てはまるかはわからないけど──まずはとにかく、たっくさん息を吸うの! すぅぅぅー すぅぅぅーって!」
ビッ! シャッ!
「攻撃を躱しながらで大変だけど頑張って!!」
「ニャッ ニャッ ニャッッッスゥゥゥゥゥッ!」
「できた そうよ! エラい! そしたら鈴の音を心で鳴らすの! わかる 鈴の音! 爪刀が〝時凪〟の能力を使った時の鳴き声よ!」
「ニュッ……ニョォォ?」
「鳴らしたらツメから風を出すような感じで──思い出して! 巨水塊戦で空を駆け回ったあの感覚を!」
シュン! シュゥン!
「ああ もうー! あっち行けーーっ! こっちは今忙しいのよ!!」
チリ……リリ……リ……
「なに……? 鈴……の音……? 実際に聞こえる……いったいどこから……」
リィィィィ…………
この音、猫物質からだ! 爪刀の首の鈴が細かく震えて鳴っているんだ! 音、綺麗!
リィィィィィィィィィ────
「爪刀っ! お願い!」
『 フヨフゥン…… フヨフゥン…… 』
柔らかく、跳ねる──。
そんな表現がしっくりくるような、背中に乗った私にもわかる反動の違い。
爪刀が……宙を疾走ってる! 右へ左へ──まるで地面を駆けるように! それだけじゃない! 上も、下へだって思いのまま!
「やった! やったよ! 名付けて 猫技 〝 空 宙 風 爪 〟!」
「ニニニニニィーーーッ!」
──ィィィィィ……ン…………
「あ……鈴が……」
クルクル……ブィ……ブィィ……ン……
鈴がなり終わると同時に再びシッポが回り出し、急ぐように地上へ降り立った爪刀。
「ニャハァ……ハァ……ッ──ッ……」
これは……絶技を使い始めた頃の万超と同じ──酸欠の症状!?
「ゴメン……最初っから無理させ過ぎちゃったね……ゴメン……」
必死に立ち続けようとする足はワナワナと震え、苦しそうにうなだれる爪刀。それでも私の方に顔を向け、「そんなことない」とでも言うかのようにフルフルと首を振った。
申し訳なさを胸に秘め、私は瑞意召魂を取り出す。
「わかってるよ。鎧万超がこんな隙、見過ごすはずがないもんね!」
見上げた先──丁度、満月へ収まるように二本の騎兵槍、そして鎧万超が急降下をしてくる。
「私にだってまだ出来ること────あるんだからっ!」
タイミングと攻撃の角度を見計らい、瑞意召魂に血を込めた。双葉を即座に成長させ、大きな樹の玉となって私と爪刀を包み込ませる!
「絶対に させるもんか!!」
ガッ ガ シ ュ ッ ッ !
二本の槍が当たった衝撃で私たちの玉は勢いよく跳ね上がる。あとは大岩剣の一撃を耐えれば──
メ リ ッ ッ
「────うそでしょ!?」
バリィッッッ!!
樹の殻は脆くも斬り裂かれてしまい、剣の先端が鼻先を掠め──さらにはその豪剣が生み出した風圧によって、私たちは為す術なく吹き飛ばされてしまった。
ピシッ
瑞意召魂にヒビが……ううん 違う! 大切なのはこれじゃない! このまま地面に叩きつけられたらそれは──爪刀が倒されちゃうってこと! 今重要なのはそっちの方だ! 鎧万超に呪いがどう影響を及ぼすのかわからないけど、万が一、爪刀と万超の身体だけが縮んで、アイツには何もなかったら最悪よ! それだけはどうあっても回避しなくちゃ!
ヒビ割れた瑞意召魂、そこに残るわずかな樹片を操って、なんとかハンモックのような半円のトランポリンを形成はしたけど──この勢いに耐えられるかは……今、接地────した!
メキキキッ……キッ──!
ギリギリ堪えてくれた瑞意召魂──あとは倒れそうな爪刀の下へなんとか身体を押し込んで────!
「ふぎゅっっ!」
ギリギリ踏み留まらせることに────成功っ!
パリン……
あ……
私の瑞意召魂…… 割れちゃっ た……
これで本当に…… 私は…………
「わわっ!」
急に身体へ長いフワモフが巻きつき、持ち上げられる。
気づくと私は再び爪刀の背中へ乗せられていた。
「ニャア!」
お待たせ! 自分、いつでも行けにゃっせ!
──まるでそう言っているかのように、力強く私を見つめてくる爪刀の瞳。
うん……そうだよね……まだなにも──
「 終わってないよね! 」
「 ニャニャーン! 」
綺麗な毛並みを月光で煌めかせ、鎧万超へ向かって勢いよく走り出す──まだ幼さを残すも頼もしき神獣。
「爪刀、そのまま聞いて。私が考案した猫技、まずはシンプルに雷、火、風、水、土のそれぞれにひとつずつだけど──ゴニョゴニョ……で、必殺の大技が、ゴニョ──ニョ……」
「──! ──! ニャッッッ!」
「よし! 決まりね!」
そんな私達のやる気とは裏腹に、鎧万超には動きがなくなっているのがどうにも気になる。追撃をするならさっきなんて絶好のチャンスだったと思うんだけど……。
「あれ……は? 爪刀、ちょっとストップ」
「ニュッ!?」
木神刀が……むき出しになっている!? どういうつもりよ……そして、また素振り…………なるほど、わ か っ た 。
「ご覧なさい爪刀……アイツってば、絶技を使いたくてしょうがないんだわ、きっと。ふふ……でも残念。万超はおマヌケなところがちょいちょいあるけど、そう易々と心の中を覗かせたりはしていないようね!」
「ンン……ニャァ……」
「なによー、その気の無い相槌はー」
ブンッ…… ブンッ……
「諦めなさい! アンタに絶技は──」
「コ……こ……ロ……?」
「──え?」
鎧万超がそう小さく呟くと……鎧の内側から漏れ出した炎の色がコロコロと変わり出した。しばらくするとその現象は落ち着いていき……鎧万超の雰囲気が──再び変化した。
「「 諦めろって? 」」
魔邪騎士と万超の声が──同時に!?
「「 絶技 鈴の太刀! 烈風ロペラッ!! 」」
ギ ュ ン ッ !
「──なっ!」
「ニャッ!?」
「「 雷 刃 縦 一 文 字 !! 」」
『 カ ッ ッ ッ ド オ ォ ォ ォ ン !! 』
「きゃあっ!」
「ニャァァッ!」
「「フフフ……そうか、心……永らく忘れていた……。礼を言うぞ、魔技使い。依代とのリンクを強化したらこれこの通り。ハハハ──絶技、これはなかなか使い勝手が良さそうだ」」
「そ……んな……」
「ニ……ニャ…………」
「「ではそろそろ──「うわ、なんだこのイケメン……ム カ つ く わ ぁ」──終わりに……」」
「…………は?」
「「……………………」」
「………………」
「………………ニャー」
今……一瞬だけ万超の声で、妙なことを言ったような……。
「アンタ……なに言ってんの……」
「「我ではな──「に、兄様!? 妹──俺に妹が!? あ、これ夢か……ちぇーっ。いいよなぁ、兄妹かぁ……一人っ子としては憧れちゃうよなぁ……なんて」────この男、一体なにを……ぐっ もうよい! 余興は終わりだ、覚悟するがいい! 引導を渡してくれる──魔技使い、そして妖しき獣め!」」
「爪刀、希望が出てきたわよ! あの万超、思ってたより元気そう!」
「ニャッッ!」
「さあ──行こう!」
「ニィヤアァァァァッッ!」
そうして始まった絶技と猫技の戦い。当然、新米猫技使いの爪刀が不利なのは百も承知。けれど、それを互角に持ち込めるアドバンテージがあるとすれば、鎧万超の絶技は見たことのあるものばかりということ。こればっかりは魔邪騎士……アンタにはどうしようもないわね! 万超みたいなヘンテコな発想、出来るヤツなんてそうそういないんだから!
「「 雷刃────!! 」」
「来るよ! 雷には雷!」
「ニャッスゥゥゥ────ッ!」
「「 縦 一 文 字 !! 」」
「今よ! 猫技 〝 雷 鉤 鳴 り 〟!」
雷の刃と雷の鉤爪が交錯────
『 カ ッ イ ィ ィィ ィ ィ ィン !! 』
「「 ぐぅぅっ! 」」
「やった! 迎撃ついでにまた、神気のブツかる音 鳴らせたよ! 効いてる効いてる!」
「ニャハァ……ニャハァァ……」
「頑張って爪刀! 呼吸、整えて!」
「ニャフゥゥ……ニャフゥゥゥ──」
爪刀の集中力が凄まじい……。この子、本当に万超のこと大切に思ってるんだ……。
「「 炎刃────! 」」
「爪刀! 空宙風爪────」
「ニャスゥゥゥゥ────ッ」
「「 縦────
「 今よっっ! 」
──── 一 文 字 ィ ィ ィ !! 」」
左右へフェイントを入れつつ疾走し、斬撃を紙一重のところで躱しながら宙へと駆け上がる。
ブイィィィィィィィン!
即座にシッポプロペラへ切り替え、爪刀が大きく息を吸い込むと──首の鈴が美しい音を奏で出した。この音 好き!
「お返ししちゃえ! 猫技 〝 舞 楽 断 火 〟 !」
万超から教えてもらった──猫はマタタビに酔っ払ったみたいになるって。それを体現するかのように身体をくねらせ、相手の予測を寄せ付けない──燃える鉤爪の、無軌道な乱れ引っ掻き技! 万超っぽく技名を考えてみたけど、我ながら上出来っ!
ジ ュ ジ ュ ッ ッ !!
例の音が鳴るのを嫌った鎧万超は、木神刀で受けることをせず、胸の鎧がわずかに溶解した。
「「 ガフッ……! 」」
「──!?」
「──ニャッ!?」
なに……? よく見えないけど……今、岩兜の下から……まさか血を吐いたの!?
「ニャ────ッ!!」
「大丈夫よ爪刀! 今のツメ、万超の身体には絶対に届いてない! 心配しないで!」
「ニ……」
「鉤爪のせいじゃない……アイツ……吸気を無視して絶技を使ってるんだ──! 大変 このままじゃ万超が!」
「魔技で……こんなこと…………ひでぇ……いったい誰が…………」
「──万超!? それは魔技じゃないわ! 爪刀の猫技よ! しっかりして──本当に死んじゃう!」
「ニャアァァァッ!」
ヒュゥン…… ヒュゥン……
このタイミングで……また騎兵槍──時間がないってのにっ!
ビ ッ ! ビ ュ ッ !
二本のランスが並んで突っ込んできた。そして少しずつ──さながら万超の螺旋突きのように──回転をし始める。
「爪刀 水の猫技で──」
「ッハ……ハッ…………」
頑張れ……頑張って──爪ちゃん!!
「ニャッスウゥゥゥ────ッ!」
シッポプロペラで空中での姿勢を維持、四本の足を一点に集め──つま先立ちのような体勢になって鉤爪から大きな水の玉を生成、迫り来る螺旋騎兵槍との間合いを見極め──
「それっ!!」
グルンと回転しながら放り投げ、槍の先端へと正面からブツける!
ジ ャ ボ ッ ッ !
ランスの勢いを失わせると同時に水中へと捕えたところで高く跳躍──真上からの鉤爪による一撃!
「 猫技 〝 水 鉤 割 り 〟 !」
ザ ザ ン ッ !
炎糸ごと断ち斬られた騎兵槍はバラバラになり、眼下の樹岩片の山へと落下していく。
「これで残るは──」
鎧万超を目で追った次の瞬間、あっという間に目の前が真っ白になり──真っ暗になった 。
「なに……が……?」
あれは……樹の燃え残り……炭の破片……? あれで死角から殴られた……の……? あんなものを一つだけ隠していたなんて…………そうか……ランスは 囮……いくら満月があっても……こんな夜中じゃあんなの……気づけるわけ……ないじゃない…………まんまとやられ……
ド ザ ッ ──
見事なまでに不意打ちをくらってしまい、地面へと叩き落とされた私。フラつく思考と両足に喝を入れ、歯を食いしばって立ち上がる。 まだだ! まだ終わるもんか!
けれど、そんな私の眼前に……木神刀に再度、岩を纏わせた大岩剣──それを今、まさに、振り下ろさんとする鎧万超の姿が────
「────っっっ!!」
ズ ガ ッ ッ !
……痛く…………ない……?
恐る恐る目を開けるとすぐ横には爪刀が……。そして私たちを覆い隠すように、周囲には──わずかに横長な出入り口があるだけの土のカマクラ……。
「これは……〝 猫 土 倉 〟 !?」
さっき爪刀に耳打ちした土の猫技──万超の言っていた、猫の憩い、小さいけれど頑丈なお家。
「爪刀!!」
「ニャン!」
猫技を解除するや否や、目に飛び込んできたのは──無数の騎兵槍と、大岩剣に風の絶技を纏わせた螺旋突きで迫り来る鎧万超──おそらくこれが、鎧万超による──最大最後の総攻撃!
すぐさま私を背中へ乗せた爪刀が、今にも走り出しそうな前傾姿勢となって大きく息を吸い込んだ。
「やるんだね 爪刀!」
コクリと頷くのを見て私は──振り落とされないようにしっかと掴まる。
「ニィ────ヤッッッ!!」
弾かれたように駆け出した爪刀。細い筒の内側を、渦巻きながら走る空宙風爪──トルネードのようなひねりを加えた突進で幾重にも降り注ぐ騎兵槍の雨を躱しながら駆け抜け、鎧万超へと肉薄する!
来た! 大岩剣が──すぐそこに────!
リリリリリイィィィ────
爪刀の鉤爪が赤々と輝き出す! これは必殺の────
〝 鉤 焔 伐 爪 の 字 斬 り 〟 !!
『 ギ ッ キ イ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ン !! 』
大岩剣の岩を溶解させた爪刀のツメが木神刀へと届き──神気の剣戟が一際高く響き渡った。
「「 グウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ! 」」
魔邪者特有の炎が乱れ、揺らぎ、岩鎧が飛び散るように剥がれ落ちて、万超の姿が露わに──!
爪刀はそのまま弱点である急所──勾玉に憑いた蘇芳色の炎を狙う!
そして私は────
「いい加減に目を覚ませ! この──寝 坊 助 万 超 ッ ッ !!」
『 キ ュ ッ ピ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ン ! 』
渾身の回し蹴りが万超の眉間へ炸裂! すると────
「痛 っ っ っ っ て ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ っ っ !!」




