第32話 邪悪スマイル
「 爆爆炎 機雷星 」
──いきなり!?
巨水塊戦で見たあの光る球が無数に、俺を取り囲むように出現した。
まるで卵の殻に閉じ込められたみたいだ……抜けられる隙間がない……そして不用意に触れたが最後、一気に誘爆が始まってしまう。
ゆっくりと包囲網が狭まってくる……。
止むを得ない……できればここぞという時に使いたかったけど──
〝神 楽 鈴 の 大 太 刀〟 !
『シャリィィ────
〝烈 風 瀑 螺 旋 突 き〟 !
木神刀の切先から推進力を伴う暴風に、滝のような激流の水を纏わせた複合絶技。渦を巻く風と水の奔流で身体を覆いながら──パッと見、一番包囲が薄そうな左斜め上方を一点突破、この窮地からの脱却を図る!
チ ッ ッ !
突きの先端が光の球に触れた。
カッッ! ドォドドオォォォォォォン!!
「うおおっ!」
誘爆による爆発の連鎖によって生じた熱風が後方から上空へと吹き上がる。
────ィィィン』
「熱づっ! ぅ熱っっっち!!」
すうぅぅぅぅぅぅぅっ! 息吸え! 息っ! 俺はとにかく吸気が途切れたら終わりゴホッゲホッ空気 熱っ! そうか──こういう状況での吸気の方法も考えておかないとマズいな! でも今、これくらいの熱さならなんとかなる──だから吸えぃ! 常に絶技を出せる状態を維持し続けるんだ!
爆発を切り抜け、上昇した先でパチパチッと光が弾け出し、目の前が真っ白に染まる。
──雷撃だ! 容赦ねぇな!
鈴 の 大 太 刀 ! 〝水 饅 頭〟 !!
カ カッッ! バリリィッ!
その名の通り、饅頭の皮みたいな厚い水の壁で全身を包み込む防御絶技──言うまでもなく、さっきお初さんに雷刃を防がれた際の見様見真似だ。技名に改善の余地があるのは重々承知だが 今 ちょっと 忙しい!
雷が水面を伝って過ぎ行き、なんとか往なせてホッとひと息……なんて暇はもちろんなくて、宙を落下する俺の眼下には──いつの間にか炎の釜が出現し、ゴゥゴゥと燃え滾っている!
「みぃー!」
爪が詰襟を引っ張る。
「なんだよ あとにしてく──」
振り向いて俺はギョッとする。上方から、あれは……隕石!? いや、土と火の合わせ魔技だ! 三メートルほどのデカい岩のような塊が炎を上げながら真っ直ぐこちらへ落ちてくる。ちょうど下に見えている釜にスッポリとハマりそうな……名付けるなら〝灼熱プレス〟って、言ってる場合か! 冗談キツイ! あんなのヘタに近寄ったらまる焦げだ! くっ……使うか──遠距離絶技!
すうぅぅぅぅぅぅ────
鈴の砲大太刀! 〝風 刃 縦 一 文 字 三 日 月〟!
ズ パ ッ ッ !
やった 斬れ────
ブ フ ァ ァ ッ ッ !!
真っ二つに割れた岩石の左右から、激しく炎が噴き上がったかと思ったら再びピタリと一つに戻ってしまった。
なんで!? あ! 風の魔技で強引にくっつけたのか! 両サイドの炎が勢いを増したのはその所為か! ぐうっ──無意味だった! こっちの手の内を晒しただけだった! いや、それよりこれ、間に合わな────
間に合わないと思いながらも吸気はしっかりしている自分に驚き、手前味噌だが少し感動してしまった。ずっと鍛錬してきたことは無駄じゃなかったんだ。だったら 活かさなきゃ──それこそ無意味ってもんだろ!
神楽鈴の大太刀!! 〝水 饅 頭〟に──
全身に水壁を纏い、炎と熱から身を護ると同時に、炎岩へ木神刀を突き立てる!
〝土 炙 鰤〟を 添 え て !!
土の魔技で作られた岩塊を、同じく土の絶技で上書きし、燃える鰤の形に変換! お初さんへ向けて振り下ろす!
「むっ──!」
ド ッ ッ ズ ゥ ゥ ゥ ゥ ン !!
もうもうと煙が立ち込める中、慎重に風ロペラ絶技で着地する。
なんだかスゴい久しぶりの地面な気がする。こんなのが……魔素が無くなるまで、時間無制限に延々と続くのか……? た、耐えられるのか、俺?
そうだ、魔素って今、どのくらいあるんだ? 確か俺にも〝視えた〟はず……。
辺りを見回す。
普段は特に気にもしないのだが──空や雲にかかるわずかなグラデーションを意識するように──周囲の空間へ目を凝らすと、少しずつ、色の濃淡を見て取れるようになる。
「──!」
ぐむむ……見渡す限り魔素の色……薄い紫色だ……。魔素って空気の流れとかに影響されないのか?
でも、あれ? すぐそこ……紫陽花というか朝顔みたいに、色の強弱が妙にハッキリしている場所が……。ほぼ色がなくなっている区域へ……水に溶ける絵の具のように濃い色が流れ込んで……あの場所は──!
「驚いた」
叩き込んだ焼き魚……もとい、土炙鰤が砕けて散った向こうから声がする。緩やかな風で波紋のように煙が払われると、フワリと浮かんでお初さんがその姿を現した。
「いつの間にか複数の絶技を同時に、しかも木神刀に纏わせるだけじゃなく、放てるようになっていたなんて」
「ちぇっ……本当は切り札として使いたかったんだけど」
「それは残念だったね……とも言えないか」
「……?」
「ホラ……これ」
お初さんが見せたポンポンが一つ、焦げている。
「まさか私が魔技で作った岩を使って攻撃してくるなんてね。意表を突かれたよ」
「カスっ……た?」
「カスってはないけど……ポンポンは風の魔技で操っているから、飛び散った火の粉を巻き込んで……狙ってやったんだと思ったけど?」
「狙っ て……ない」
……しまった。嘘でもいいから思惑通りとか言った方がよかったか……?
「…………バカ正直……ふふっ。──じゃあ続けるよ!」
薙ぎ払うような雷の攻撃が二度、三度と、往復ビンタのように繰り出される──が、冷静に〝水饅頭〟で防御する。さっきまでは少しビビりすぎて常に〝大太刀〟の絶技を使っていたが、〝太刀〟でもどうやら防げそうだ。
お初さんは攻撃の合間合間に、風の魔技を使って何度も足を掬ってくる。が、転ばぬ先の杖ならぬ木神刀──その都度地面へ突き刺して、絶技──〝鈴の飛太刀 土鯉昇〟を彼女の真下から発動、牽制することで連撃の阻止を図る。
当然のことながら、魔技は攻撃だけではなく防御でも魔素を消費するので、こちらからも積極的に絶技を仕掛ける。耐えるばかりじゃない、攻めて──あわよくばポンポンを狙う!
戦い方がだんだんわかってきた気がする!
さらに、攻防を繰り返す中……魔技というものついて、いくつか推論を立ててみた。
例えば──天魔導士は見た場所に現象を発動させることが出来る。ならば俺の体内を爆破……とはいかないまでも、身体の内側で魔技を使えば大体一発でカタがつく。
なのにそれをしないのは何故か。
おそらく、しないのではなく出来ないんだ。お初さんが俺を殺すつもりがない──とか、そういうことではないと思う。どうしてかというと、魔邪者が相手でもそれをしなかったからだ。もし可能だったなら、初っ端に弱点である急所の炎を攻撃して、それで終わっていたはずだし、カーグカーデンで伯爵や子爵、男爵にも負けることはなかったんじゃないか?
そこから考えるに……たぶん、物体や液体などを挟んだ先で発動することは不可能なんだ。閉め切った建物の内部を外から魔技で壊す、とかも無理なはず。
あくまでも目で見ている範囲、自分のいる場所から遮るものの無い空間でしか魔技は発動出来ない。いや、目では見えないような──めっちゃくちゃ遠くでも使える可能性はあるだろうけど、それだと狙いもクソもないし現実的ではないだろう。
つまり!
今、俺達がいるこの開けた空間は、天魔導士にとって絶好の戦場ってことだ。 ガ ッ デ ェ ェ ェ ム ! くっそう……なにか弱点だったり、攻撃の糸口になればと思って一生懸命考えたのに!
そうだ────弱点かどうかはさておきもう一つ、気になることがあった。
それはさっきの……絵の具が流れるみたいな魔素の動きのことだ。
強力な魔技が使われた場所では魔素は消費され、薄まったり無くなったりする。先刻のアレはおそらく、そこを補充するみたいに濃い魔素が周囲から流れ込んでいたんじゃないか?
だとすると──強めの魔技をかまされた後ってのは、間合いだったりを仕切り直したいが為についついその場を移動しがちだが、もしも耐えたり躱すなりが出来たのなら……下手に動かない方がいいのかも? 強烈な連続攻撃を浴びる可能性が低くなる──かもしれない!
頭に入れておいて損はなさそうだ。お初さんはこのこと、気付いているんだろうか……? にしてもまさか、天魔導士の攻略法に思考を巡らせる日が来ようとは思いもしなかった。
──などど考えていると、繰り出される魔技の苛烈さがジワリジワリと増してきた。
攻撃を通して言われてる気がする。「私を相手にボンヤリ考え事とはいい度胸じゃない」──って、 言 わ れ て る 気 が す る ! 違うぞ! 頭フル回転で頑張ってるんだぞ!
「みぃ……」
爪が肩に軽くツメを立てる。
「なんだ? 見ての通り 今 俺は忙しいぞ!」
ヒュルルルル…………
前後左右に小さな旋風──と、次の瞬間、それらは炎を伴った巨大な竜巻となって襲ってきた!
上──に逃げるのは無理だ! バカ高い火焔の奔流に途中で捕まっちまう! かといって横は──飛び出した所を狙い撃ちされるかもしれない!
だったら────
鈴の太刀! 〝土 鯉 落 穽〟 !!
水面に浮かぶエサを食べる鯉を模した土の絶技。大きく開いた口の中へすぐさま退避──謂わば自分用の緊急避難落とし穴だ! 自ら落ち──即座に〝水饅頭〟で全身を防御──と同時に〝飛太刀〟でなるたけ多くの水を鯉の口から噴射する!
ジュジュヴァァァァァ!!
炎の竜巻と絶技で放った水が凄まじい水蒸気となって辺りを覆い尽くす。
────今だ!
大量の蒸気、その煙幕に紛れて地上へと躍り出る。
「────っ!?」
目を疑った。白煙のような靄の中、お初さんと思しきシルエットがそこいら中に──!?
あ 違う! これは土の魔技で作った偽物だ! 本物は──ぁ──ぁぁ────わ か る か ぁ! くっそ! そんなら──
鈴の小太刀! 大 漁 ── 土 鯉 昇 !
可能な限り、大量の土鯉を地中から跳び上がらせ、土塊のお初さんへ次々と突撃させる。これでどうだ! さぁ本物はどこに……
────っ 上から気配が────!?
ッ カ ァ ァ ァ ァ ァ ン !
木神刀で受け止めたのは──紛れもない、本物のお初さんが振るう、双葉を剣の形に変化させた瑞意召魂だった。
天魔導士が……白兵戦!?
驚いたのは直接攻撃だけではない。お初さんの後方──上空からドデカい炎の塊が降ってきているのだ! 絶技での上書き対策なのか、今度は岩石は見当たらない、純粋な燃え盛る業火──だ!
「どう避ける?」
お初さんが悪そうな微笑みと共にそう囁いた。だが俺も負けじと邪悪な笑顔で言い返す。
「避けないとマズいのはお初さんの方だぜ」
「!?」
火炎の球は俺達に近付くにつれ、どんどん小さくなっていく。そう、ここは、つい今さっき強大な魔技が使われた場所。魔素はほとんど残っていない! つまり、あの炎球はここまでは届かない────はず!
「──っ!」
お初さんが距離を取ろうとするも、少しガス欠気味の風の魔技。動きにいつものようなキレがない。この好機、 絶 対 に 逃 さ な い !
神 楽 鈴 の 飛 太 刀 ! 〝 風 雷 龍 〟 !!
風で速度を増した木神刀の一振り──雷刃が龍のようにうねり、伸びて、お初さんへと突き進む! 上空からの炎塊はやはり、ここへ届く前に霧散した。予想通り! だが! 予想外なことは!
パジュッッ!
思いのほか早く、お初さんがこの──魔素の低下した空間を抜け出たようで、俺の絶技は五重の水シャボンで身体を覆う魔技によって防がれてしまった。
パパンッ! パパパンッ!
纏ったシャボンを解除し、周辺を観察しながらお初さんが言う。
「なるほど……」
どうやら俺の立っている付近に魔素が流れ込み、均一に馴染んでいくのを認識したようだ……。
「知らなかった……。私より先に気付いてたってのは、正直悔しいわね」
……っ……ひゅーっ…………ひゅーっ…………。
「どうしたの? 苦しそうだけど、終わりじゃないよね?」
「ちょっと……無理 したんで……ね……息が……でも…………お れの攻撃は……まだ終わってないぜ……?」
「え?」
──次の瞬間、二の腕サイズの燃える土鯉が地中から勢いよく跳び上がり、ポンポンの一つに喰らい付くと、そのまま地面へと落下した。
「あーーーーーっ!」
──そう、風雷龍で振り下ろした木神刀の剣先は今、大地を抉っている。
〝神楽鈴の飛太刀 土 鯉 焼 の 昇〟
へへ……、一ポン取れたのはいいが神楽鈴の飛太刀……連発はするには吸気不足だったみたいだ……。
「 や る じ ゃ な い 」
ほ、褒められてる気がしない。心なしかお初さんの微笑みが邪悪さを増していくような……。
ひゅーっ……ひゅぅーっ……。
勝負はまだ、終わらない────────




