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万超と爪刀 ーバンチョウとソウチョウー  作者: 七五三沙 イコ


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第30話 神楽鈴の太刀

 絶技素振り、一日千回。


 お初さんの新提案に(のっと)って、吸気を小太刀、太刀、大太刀に分け、絶技を一度だけ鳴らす鈴の音に収める。


 何事もそうだと思うけれど……始める前は若干気後(きおく)れしたものの、いざやってみれば案外なんとかなるものだ。とはいえ、最初の一週間は随分時間もかかったし、なかなかに苦労したことも確かなのだが。


 木神刀を素振る時に出す絶技の順番は、雷・火・風・水・土で、回数は、小太刀を四百、太刀を三百、大太刀を三百回だ。


 続けていくうちに気付いたことがある。それは何かというと、実は小太刀が一番難しい──と、いうことだ。難しいというか、忙しいのだ。

 太刀は、しっかりと吸ってぇ──振る! 大太刀は、大きく吸っってぇぇ──振るぅ! てな感じで〝間〟が取りやすい。

 一方で小太刀は──その性質上、早素振りで訓練しているのだが──吸気(きゅうき)の回数が多くてかなりしんどい。息を吸うことに意識を持っていかれてしまい、絶技に集中することができないのである。


「オイッス 万超! 調子はどうだい? だいぶいい感じに見えるけど」

「あ、お初さん。実はさ……」


「ふむふむ……なるほど。だとしたら、もっとしっくりくる方法を探すっきゃないよね」

「え? でもせっかく新しいルー ティンをお初さんが考えてくれたのに……」

「み……妙な義理堅さを発揮してるわね……。けどさ、そんなの気にすることないよ。一番大切なことは〝万超にとって〟それが最適かどうか、でしょ?」

「俺にとって……」

「そうそう。なんと言ってもキミは今、木神刀という新しい道を切り(ひら)いている先駆者なんだから」

「おお……先駆者……」

「ニヤけてるニヤけてる」

「う、うるさいな……」


 でも、じゃあ……どうするかな……うーん……。


「あ、そうだ、お菓子食べる?」

「うぅーん…………お菓子?」

「気分転換にどお? はい、これ」

「これって……コンペイトウ?」

「当ったりー。さっき(そう)ちゃんにもあげたんだ」

「え……(アイツ)ってこういうの食べても平気なのかな……」

「心配ないない。食べていいものとダメなもの、(あの子)、自分でちゃんとわかってるよ」

「そうなの?」

「うん。食べたらいけないものを見ると、すんごいジト目で(にら)みつけてるから、あ、これダメなんだなーって、すぐわかるよ」

「へぇー……知らなかった」

「てなわけで、ハイ、おひとつドー ゾ」

「どーも」


 カリコリ……。


「この味は……桃?」

「 正 解。 前に収穫した八百万樹の桃でいろいろ作ってみたうちの一つがコレよ」

「作った!? お初さんが!?」

「なによ、意外そうな顔してさ。そーよ、私が作ったわよ。まずは、桃を小さーく細かーく切ってからフライパンで弱火にかけるでしょ。そこへ──前もって(しぼ)っておいた桃の果汁を熱して──少しずつかけながら、混ぜて、絡めて、冷ましてを繰り返しぃの……」

「も……桃、百パーセントのコンペイトウ!?」

「そうなのです。驚いた? もはやこの金平糖(コンペイトウ)は、お砂糖の〝糖〟ではなくて〝桃〟──〝コンペイ(トウ)〟ね」


 そんなことが可能なのかとも思ったが、そもそもが八百万樹の()だ。デカさは並ではないし、光と共に(そう)の身体に注がれちゃうしで……まぁ、なんでもアリ……か……。


 カリコリ……。


「で、お味はどうなのよ」

「ちょい待ち」


 カリコリ……。


「なるほど、八百万樹の桃だったのか……どうりでこの芳醇(ほうじゅん)な香りと甘さ……」


 カリコリ……。


「それでいてどこか懐かしさを感じさせる……」


 カリコリ……。


「かと思えば…………」


 カリコリ……。


「…………ねえ、お初さん」

「なに?」

「これ、噛んでも噛んでも全然小さくなっていかないんだけれども……」

「そうなの? お得じゃん」

「 い や、 お っ か な い け ど ? 」


 カリコリ……カリコリ……。


「噛むと……うん、確かに砕けてる箇所はある……はずなのに……ずっと大きさが変わらない……怖い! なんで!? なにか秘密のレシピで作り上げたとか!?」

「はて……今の私は〝噛む〟ってことが出来ないからなんとも……。食べ物は全部、直接身体に吸収しちゃうし」

「お初さんも食べたんだよね? このコンペイ桃」

「食べたよ。あまりにも〝ダコシャス〟だったから、八百万樹の桃を初めて口にした──あの瞬間を思い出したりなんかして……嗚呼(ああ)、ウットリ……だったけど?」

「う、うん、ウットリしちゃったか……。それで、身体の方はなんともない?」

「ないよ? それどころか俄然(がぜん)元気になった気さえしてるし。パワァーチャァァジ! みたいな感じ」

「ふー……ん……」

「あー、信じてないでしょ。(そう)ちゃん、これ食べてから、すんごい力が(みなぎ)りまくってるんだから。ホラ、あれ見なさいよ」


 そう言って、お初さんは上を指差す。



 ブゥゥゥゥゥゥン! ブィィィィィィィン!



 (そう)が……〝遠鳴き〟形態の(そう)が、シッポを……後方(おケツ)に装着されたプロペラであるかの如くにブン回し、楽しそうに空を飛んでいる。


「ね?」

「なぁに? あの生き物……」

「コンペイ桃、まだまだたくさんあるんだけど、その調子なら取り敢えずは一粒でいいわね」


 カリコリ……カリコリ……。


「……減って いかない」

「よし! ではではお邪魔さま。気分転換にはなったかな?」

「ああ、ありがとう。気は紛れたよ」

「よかったよかった。そんじゃ、頑張ってねー」

「うーい」


 気は、確かに紛れたのだが……その代わりに〝噛み砕いてもなくならない、コンペイ桃の謎〟という、新たな気掛かりが誕生してしまったけれど……。


 カリコリ……。


 にしても、本当に美味いな、コレ。全くもって減っていかないのが、ちと怖いが。お初さん、〝ダコシャス〟って言ってたな。()ンペイ桃だからダ()シャスか。〝ダリシャス〟って、初めて聞いた時はこんなに汎用(はんよう)性が高いとは思ってなかったよ。


 で……なんだっけ……おお、そうだ、小太刀の吸気問題をどうするかだった。


 カリコリ。


 吸う回数を減らせれば、それがベストなんだけど……カリコリ……うーん……カリコリ うーん ガリコリ……ガリゴリ……ガリ……ガリ、ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ────はっ!

 ついムキになって噛み砕きまくってしまった。だのに……まだ小さくなっていないぞ……。なんだろう、この悔しみは……。こうなったら一呼吸で何回ガリれるかやってみるのも面白いかもしれな…… んん?


 一呼吸で? ガリる? ──それって、音を鳴らすってことだよな……。


 つまり、一回の吸気で鈴の音を──


 こ れ だ !


 吸気は常に最大で、調節するのは鈴の音の回数!


 試してみるか……すぅぅぅぅぅ……おかわりは最大吸気で──すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!



 カッ!(『リィン』) ボッ!(『リィン』) ビュオッ!(『リィン』) バシャッ!(『リィン』) ズモンッ!(『リィン』) ────


 出来るじゃん! 出来たじゃん! 俺っ!

 よし! あとは何回連続で発動が可能かを実験だ!


 ………………


 …………


 ……


 結論から言うと……


 小太刀は雷・火・風・水・土の五種類を五セット──つまり、二十五回絶技を出しながら振ってもまだ余裕がありそうだった。

 太刀は五種を一回ずつ。

 大太刀は言わずもがな一振りだけだ。


 なるほどね! これでよかったのか! あとは息継ぎのタイミングを身体に叩き込んでいけば──


 カリン……。


 あ、コンペイ桃が……。


 謎のお菓子コンペイ桃は、二時間ほどの噛み砕き放題タイムの後、キレイになくなったのであった。そして確かに力が漲るというか、テンションまでも上がるというか、俺にもシッポがあったなら、(アイツ)みたいに空を飛んでいたかもしれない……そんな気にさせる何ともスゴい菓子だった。


 そんなこんながありつつ、翌日からの絶技素振りは今まで以上に身が入り、驚くほどにスムーズで、日に千回以上振ることもザラになっていった。こうなってくると出す技も順番をなくしてランダムに……vsお初さんを想定し、より柔軟な対応ができるように変えていく。


「ふいー、なかなかいい感じだ」


──けど……なんといっても相手はあのお初さん。

 俺と(そう)は未だに、ろくすっぽ間合いを詰めることすら出来ていない強者(つわもの)だ。はてさて一体全体どうしたものか……。

──などと考えながら素振(すぶ)っていたら、足元に置いてあった下駄でつんのめってしまった。


 ボウォッ!


「────っ!?」


 ……炎が、飛んでった……。


 え!? 絶技、飛ばせるの!? 刀身に(まと)わせるだけかと思ってたよ!


 ゾクゾク。


 うおおっ! 瓢箪(ひょうたん)から(こま)! 棚から牡丹餅(ぼたもち)! 下駄に蹴躓(けつまず)いて遠距離絶技!

──いや! いやいや、浮かれるな! どのくらい酸素を消費するのか、まずはしっかり確認せねば!


 ………………


 …………


 ……


 なるほど。小太刀の威力で太刀一回分ってところか……。と、いうことは、今の俺の最大吸気で小太刀の遠距離絶技を放つのは連続五回が限度だ。さらに使うには息継ぎが必要。太刀なら一回で、大太刀は……まだ無理だな。



 そうして数日が経ったある日、さらに嬉しい誤算がもう一つ。



 それはうららかな昼下がり、絶技を出しながらどれだけ速く素振(すぶ)れるかチャレンジをしていた時のことだった。ふと、一振りの間に素早く技を入れ替えることは出来ないものかと思い立ち、あまり深くも考えず、好奇心の(おもむ)くままに挑戦してみることにした。鈴の音は速く、火の直後に水を出してみよう。


 (『リ) バシャ(リィン』) !


 おお、出来る。


 (『リ) バシャ(リィン』) !


 もっと速く!


 ボバシャ(『リリィン』) !


 もっともっと速く!


 ジ ュ ワ ッ ッ(『リャン』) !


「うおぅ!? なんだ!?」


 蒸気──か!? ほぼ同時に鈴音が鳴ったと思ったら、火と水じゃなくて真っ白な水蒸気が……。ひょっとして絶技は……組み合わせることが出来る!? だとしたら技のバリエーションが一気に増える!


 なんだこの気持ち……。


 すっごいワクワクする!

 火と水で水蒸気……、なら火と水と風なら? 鈴音は三つで──


 ジュッフュゥゥゥ!


 おおっ! 水蒸気が風に舞って一瞬だが霧のように──! 同時に鳴らす鈴の音を増加すれば、出せる技の数も増やすことが出来る!


 お初さんじゃないけれど、〝鈴の太刀〟と区別するために新しい名前が欲しいな! うぅぅぅーんどうしようか。二鈴(ふたすず)三鈴(さんりん)? いや……この際、複合絶技の時は必要以上の鈴の音を鳴らすようにしよう。そうしておけば、鈴の数に気を取られることもないだろう。小太刀の吸気で苦労したような──同じ(てつ)()まないぜ。


 で、だ。たくさんの鈴がなるといえばやはりアレだな。巫女(みこ)さんが神楽舞(かぐらまい)で使う〝神楽鈴(かぐらすず)〟……名付けて──〝神楽鈴(からす)の太刀〟──とか…………うん……うん! いいんじゃないか? おし! これでいこう!



 お初さんを驚かせてやろうと思い、〝遠距離絶技〟と〝神楽鈴の太刀〟はこっそりと、(ひそ)かに練習しつつ、日々の修行に精を出す。


 (そう)は〝遠鳴き〟形態をモノにしたようで、ライオンくらいのデカさを常に維持できるようになっていた。たまに、その大きさの状態で〝スコ座り〟をしながら、コンペイ桃をガリガリとやっているのだが、そんな時の(そう)は……なんつーか、もう……年上のオッサンにしか見えなかった。


 と、余談はさておき──獅子(遠鳴き)形態の(アイツ)は体重ははるかに増せども、シッポプロペラを器用に使うので、走るスピードは〝大型犬(気合い鳴き)〟状態の時より断然速い。おかげで俺は、付いていくのに一苦労だ。

 さらに、ニャニャン三脚での根性走りも撃破用の水の球が増え、難易度が加速度的に跳ね上がっていく。

 ヒィ……ハァ……フゥ……しんどい! しんどいけど……



 楽 し い ん だ な こ れ が !



 修行を始めた最初期の頃とは違って、出来ること、やったことがちゃんと形になっていく……。頑張りがいがあるってすんごく楽しい──て か 嬉 し い !


「おーっ? 万超も爪刀(そうちょう)も、だいぶ仕上がってきたんじゃない?」

「ふっふっふ……やはり、わかってしまいますかな?」

「ニャァン!」

「そろそろ、マントのポンポンに届くかな?」


 そう、それが最後の問題なのだ。


「今日こそ そのウサギのシッポみたいなポンポン、いただくぜっ!」

「ンーニャーーッ!」


「ハッ! 言うじゃないか! それじゃあ今日の(しめ)! 初風道場! vsアタイ! 準備はいいかい!」

「おうよ!」

「ニャッッ!」


 はっけよほぉぉぉぉぉぉぉぉい…………の こ ほ っ っ た ぁ っ !

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