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万超と爪刀 ーバンチョウとソウチョウー  作者: 七五三沙 イコ


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21/25

第21話 覚悟

万超(ばんちょう)が倒されるって……巨裂牟(アイツ)にも呪いを発動させて体を小さくさせようってこと!?」

「そう」

「私は反対。潰されちゃったらどうするの!? それに魔邪者に呪いが効くかどうか……」


 ズウン…… ズウン……


 (そう)(うま)()いて来たおかげか、巨裂牟(ゴレム)は俺達を見失っているようだ。


「無茶はしない。それに(そう)は神獣なんでしょ? 神獣でさえ呪いからは逃れられないんだから、巨裂牟(ゴレム)だって例外じゃないはず」

「それは……そうかもしれないけど……」

「……とはいえ相手は岩石、あの攻撃をなんとかしなけりゃどうにも……(かなめ)はこの八百万樹(やおよろじゅ)の枝 か……折れたけど」

「折れたって……それ、本当なの」

「本当。ポキッて。お初さん、確か葉っぱ……八百万樹の落ち葉にも神気は宿ってるって言ってたよね」

「え? ええ……」

「だったら枝にも……(そう)、さっき巨裂牟(ゴレム)の右腕を割った時みたく、ちょっと(コレ)、思いっきり引っ()いてみてくれ」

「……ウゥゥ……ニャッ!」


『 キ ィ ン ! 』


「うわっ」

 なんか、野球の金属バットで硬式のボールを打った時みたいな、甲高(かんだか)い音がしたぞ。巨裂牟(アイツ)の腕が八百万樹に当たった時とは全然違う……。そういやお初さん、(そう)はツメを研いで神気を蓄えているのかもって……。神気を帯びたモノ同士がブツかるとこんな音がするのか?

 ああ、違う、今はこの棒の強度だ。どこかに傷は……よし、ついてない! ──ってことは、少なくともこの折れた枝は、巨裂牟(アイツ)の岩より硬いってことだ。


 巨裂牟(ゴレム)を縮めて、お初さんの魔技(マギ)で……魔技 で……。


「…………お初さん、魔技で撃つと巨裂牟(ゴレム)は……どうなるんだ……?」

「どうって……未練や怨念の核を撃ち砕く、もしくは強制的に切り離すことになるわ。そのあと、霊魂は()るべきところへ還る……」

「…………」

「……どうかしたの?」

「……いや、なんでもない! んじゃあ俺が倒されてアイツを小さく! (そう)穿(うが)ち、お初さんが撃ち抜く!」

「ちょっと待って」

「一頭身までいくぞ! (そう)は倒しても倒されてもダメだからな。呪いは両方に発動するんだから」

「ニャッ!」


「   待 ち な さ い !!   」


 初めて聞く、お初さんの怒声(どせい)……。


「簡単に考えすぎ! そんなの作戦なんて呼べない! 一歩間違えれば死ぬのよ! わかってんの!?」


 優しい人だ……。心配して、本気で怒ってくれている。


 相手が本気だからこそ、俺も真剣に見つめ返し──


「わかってる。本当なら俺は、さっき二回死んでる。お初さんと(そう)に命を救われた。爪は危険を(かえり)みず、お初さんは大量の血を使ってまで……」

「………………」

巨裂牟(アイツ)はね、俺かもしれないんだ……」

「……なに……言ってんの……?」

「大丈夫、()()()()()()()()()()()()()()。そう何度も命を落とすつもりはないさ」

「……万超?」

「それに戦闘は基本、アドリブって言ってたじゃないか」

「うぐっ……言ったけど……」

「綿密なプランもいいけど、大まかな作戦であとは臨機応変──違う?」

「うぅ……確かに私も……そういうタイプだけど……」


「 この命 爪刀(そうちょう)初風(はつかぜ)に預けた! 」


 (そう)は、鳴きもせずに黙ったままだった。しかし、瞬きすらしないで力強く俺を見据えている。

 お初さんは少し(うつむ)いて、目を(つむ)り、しばらく何かを思案している風だったが、「わかった」──と、(つぶや)いて顔を上げ、俺達へ交互に視線を送ると……

「まかせなさい。アンタ達はこの私が、絶対に死なせたりしないんだから!」

──そう言って、不敵に笑った。


 男前(オットコまえ)台詞(セリフ)。その頼もしい言葉に、俺も笑顔で応える。

 しかし……彼女の胸の(うち)──その覚悟の程を見誤っていることに、この時の俺はまだ気付いていなかった。


「そんじゃ、行ってくっか!」



 ズウゥン! ズウゥン!



 巨裂牟(ゴレム)の視界へと歩み出る。すると巨裂牟(ヤツ)は頭部を直角に傾けてこちらを凝視してきた。


「フウゥゥ……飲まれるな、落ち着け」

 大事なのはどう倒されるか……直撃は死ぬ、間違いなく。カスって倒されるのが理想なんだが……。

 接近すると岩腕(がんわん)の振り下ろす攻撃が来るけど……近過ぎて避けるのは厳しいか……。近付くにしてもその時は八百万樹の根を背に──いざという時はその陰に隠れて壁になってもらおう。

 やっぱり、さっきの伸びてくる(がん)パンチだな。アレを(かわ)しつつ、岩の(はし)をこの枝で受けてフッ飛ばされる──うん、これだな!

 と、なると、重要なのはヤツとの間隔……登った樹の上でギリギリ回避できた距離。今の俺と巨裂牟(アイツ)の間合いは、あの時より少し遠い……か……よし、んじゃあ、見合って見合ってぇぇ──


 はっけよほい、のこほっただ!


 巨裂牟(ゴレム)の頭の傾きが戻り、右腕が俺に狙いを定める。


 しめた! この距離なら……!


──と、そう思ったのも(つか)の間、突き出している腕が水平に──横向きへと角度を変える。先刻の(そう)による一撃で右腕は五つ割れており、向けられたそれはさながら(クロスボウ)(つがえ)られた五本の矢……いや、五粒の特大な金太郎(あめ)みたいだった。


 え……まさか──五連射!? どうする!?  一発目で倒れて……いや──

 考える間もなく、こちらに狙いをつけた五つの──人の手指(しゅし)でいうところの親指がわずかに動いた──


 来る!


──と、ほぼ同時に残りの岩指(がんし)も動きだす!

「──ッ!!」

 この連撃はマズい! すぐさま根の陰へ飛び込む!



 ガ ァ ン! ガ ァ ン! ガ ゴ ォ ン! ガ ァ ン! ガ ン!



 初撃の場所へ、続く岩が次々と着弾する! 互いにぶつかり合って(さら)に小さく砕けるが、それらは青白い炎で結ばれて巨裂牟(ゴレム)の右腕へ続々と戻っていく。


「……もしかして……次はあの砕けたのが飛んでくるのかな……? それってつまり……マシン(ガン)じゃねぇかよ!」


 早く()()()()()()難易度がどんどん跳ね上がっていく。これなら振り下ろしのほうがまだマシかも……。


 そんなことを考えていると、巨裂牟(ゴレム)(ひざ)の炎を軸に前後に揺れ始めた。メトロノームのようなその動きは徐々に振り幅が増してゆき、大きく()()ったと思ったら──自身を発射するかの如く、一直線にこちらへ弾け飛んできた!



 ガ ガ ァ ァ ン !



 俺が八百万樹の根を盾にしていても、お構いなしと言わんばかりに巨裂牟(ゴレム)は顔から突っ込んできた! ──ゴカッと低い音が響き、口の裂け目がさらに広がる。



 すぐそこに  顔がある……。



 三メートル以上はあるだろうか……そして間違いなく、俺を見ている……。



 あの眼…… 大きく見開いた…… 眼……



 なぜだろう……自分でもわからない……。気が付くと俺は根の上に登り、その顔に触れていた。

 青白い炎が表面を(はし)る。俺は驚きを隠せなかった……だってその炎は──



 冷たかったんだ……  絶望的なまでに……



 燃え上がる()てついた炎……これが……未練や怨念に囚われた成れの果て……こんなものに包まれて巨裂牟(コイツ)は……


「お前……両親に……会いたいのか?」


 炎の動きが……揺らぎが、穏やかになる……。


「俺もなんだ……」


 その時、瞬刻(しゅんこく)浮かび上がった表情は今にも泣きそうで──正気に戻ったように見えた……が、再び炎が激しくなると同時に、巨裂牟(ゴレム)はブンと頭を振った。


「ふう゛っ──」


 突然、胸を勢いよく圧迫されて変な吐息が漏れ出た。

 分厚い壁で殴られたような感覚──目の前が一瞬真っ暗になり、次に目を開けた時、俺は地面へ身体を……例えるなら、川で水切りをした石のように、何度も打ち付けながら二十メートルほど吹っ飛ばされていた。


「万超!!」

 あ……お初さんだ……。(そう)もいる……って(おまえ)……なに……オタオタしてんだよ……らしくないじゃんか……。

「生きてる!?」

「生き てる さ……」


 巨裂牟(ゴレム)の頭がブツかる瞬間──わずかだが後ろへ飛び退()き、反射的に折れた枝で身体を防御した。そして巨裂牟(アイツ)は八百万樹の根につかえて頭部を振り抜くことが出来なかった。

 あちこち痛いが、奇跡的に骨も折れてなさそうだし、意識も──ちょっとフラつく程度だ。


「へへ……俺……バッチリ倒されたよな……」

「万超、血が──」

 どうやら額の辺りを切ったらしく、触れた手に赤いものが付着する。

「模擬戦じゃないんだ……血ぐらい出るさ……。それより見るのは俺じゃないだろ……呪いが来るぜ……」


 押し潰されるような感覚──! 身体が 縮む!


「ヴ ゥ ッ!? オ゛オ゛オ゛オ゛……」

 巨裂牟(ゴレム)巨躯(きょく)(きし)み出す! やった! やっぱり魔邪者にも呪いは発動するんだ!


 俺はすぐさま起き上がると、(かたわら)に転がる八百万樹の枝を拾い、走り出そうとするが──

「ちょっと!」

 お初さんに呼び止められる。しかし、今を好機と見ている俺は先んじて口を開いた。

「呪いで面食らった後の最初の攻撃は、きっとなまくらなはず! 上手くすれば、すぐにでも巨裂牟(アイツ)を二頭身にできるかもしれない!」

「聞いて! もしそれが成功して巨裂牟(ゴレム)が二頭身になったら、その時点で魔技を撃つわ! 一頭身にまでなったら万超が危険すぎる!」

「──!」

 確かに、一頭身(あの)の身体ではロクな動きが出来ない……。


「わかった!」──そう言って、俺は駆け出す。


 マシン(がん)を警戒して巨裂牟(ゴレム)の左側から回り込むが、どうやらそれは杞憂だった。なぜかというと、魔邪者の本体である〝霊魂〟にまで呪いの影響は及ぶらしく、青白い炎が小さくなっていたからだ。取り憑ける範囲が狭くなり、(ひじ)から先の岩石は地面に落下、(ひざ)から下の大岩はピクリともしなくなっている。当然、肘と膝から噴き出していた炎も無くなっている。

 胴体は呪いを受けたせいで、上下が(いびつ)に割れて、元の半分の大きさになっている。

 両の二の腕と太腿(ふともも)に位置していた岩塊(がんかい)は未だ健在だが、手足と胴が短くなり、全体としても半分以下へと縮んでいる。


「ゴ……レ゛……ハ……?」


 異変を確認するかのように、巨裂牟(ゴレム)は自身の体を見回している。右の腕を見て……左の腕を見た。その視線の先には、今まさに走り寄る俺がいる! 一瞬ヒヤリとしたが、巨裂牟(アイツ)は短くなった腕に気を取られ、こちらには気がつかなかったようだ。

 すぐにヤツの腕の陰──死角へと潜り込むような進路をとり、さらに接近する。

 目指すは足だ。もう少し近づいたらあの足に飛びついて大声を出す! 巨裂牟(アイツ)が驚く……かどうかはわからないが、反射的に振り払ってくれでもしたら(おん)()、その勢いでまた()()()()ことができる! さっきの頭突きの応用だ!


──と、その時、悪寒が走った。


 ヤツの足からふと視線を上げると……自身の腕の下から覗き込むように、巨裂牟(ゴレム)がこっちを……あの大きく見開いた眼で俺を凝視していた……。


「──あ」


 ロケットを打ち上げる時の白煙のように、肩の炎が爆発的に膨らんだ瞬間──ノーモーションで左腕が飛んできた! 手に持つ枝を構えながら右へと身体を投げ出す! ──が、間に合わない! 直撃す──


「 ニ゛ ャ ッ ッ ッ ! 」


 突如、三時の方角から現れた(そう)の一撃! 軌道がわずかに()れた! 岩石の(はし)を八百万樹の枝でなんとか受けた俺は──盛大にフッ飛んだ。


 ズッシャアァァ──!


「痛ってぇぇ!」──けど! やったぜ!


 身体が再び縮む! 二頭身になった俺を(そう)が拾い上げ、背中に乗せてその場を離脱する。

「また助けられたな! あとでたっくさん撫でてやるからな!」

「カッ!」

 あ! スッゲェ嫌そうな顔!


 巨裂牟(ヤツ)の体が砕け、割れて、二頭身となる。

 頭部と──それと同じくらいに割れた胴体──そして手足もさらに小さくなって全長は四、五メートルに! これなら!


「今だ! お初さ──


 そう叫ぼうとした時、巨裂牟(ゴレム)の後ろで何か……粒のようなものが空中で次々と集まっていくのが見えた。波打つ球体……あれは……水の塊!? と、次の瞬間──


『 シュガッ! 』


 鋭い水の針が無数に──さながらウォータージェットのように突き出して、巨裂牟(ゴレム)の胴体を余さず貫いた。


「グ……ガ……!」


 巨裂牟(アイツ)の動きが……炎が……止まってゆく…………。


 その姿を俺は……唇を噛んで見つめていた。


 これしか……ないんだよな……。もしもあれが俺だったら……正気を失って人を襲うくらいなら……やはり……ああして欲しいと思う……きっと……。


「マ……ギ……ヅ…………イ……」


──え?


「マ゛ ァ ァ ギ ィ ィ ヅ ゥ ゥ ガ ァ ァ イ゛ ィ ィ ィ !」


 巨裂牟(ヤツ)の視線の先、ここから離れた根の上にお初さんがいる!

 (にわ)かに、頭部から蘇芳色(すおういろ)に変化した炎が噴き出し、砕かれた岩を次から次へと繋ぎ合わせ──まるで地を()う人面ムカデのような形態になって、巨裂牟(ゴレム)はお初さんへとまっしぐらに進み始めた!


 これって……巨裂牟(アイツ)の弱点は……〝色の違う炎〟は胸ではなく頭部にあったってことなのか!?


『 ピシッ! 』


 ムカデ巨裂牟(ゴレム)の頭上が刹那に光り、三筋の(いかずち)が降り注ぐ!


 ドォン! ドォン! ドォォォン!


 ウネりながらその全てを(かわ)し、ムカデ巨裂牟(アイツ)(なお)もお初さんへと爆進する!


「魔技を……どうして……」

 なにを……やってんだよ……お初さん……あと一回が限界だって言ってたじゃないか!


 彼女の言葉が脳裏に蘇る──

「天魔導士が巨裂牟(アレ)を前にして逃げるわけないじゃない」

巨裂牟(ゴレム)は絶対、なんとかしないと……」

「アンタ達はこの私が、絶対に死なせたりしないんだから!」


 あんなこと言っといて、自分は死ぬつもりかよ! クッソォォッ!


(そう)ーッ!」

 俺が叫ぶと同時に(そう)が猛然と走り出す。


 爆炎が 水のかまいたちが ムカデ巨裂牟(ゴレム)に放たれるも当たらない! 精度がどんどん悪くなっている! お初さん もう──ちゃんと見えていないのか!?


 巨裂牟(ヤツ)とお初さんの距離 十メートル! その時──突然地面が()り上がり、ボクシングのアッパーカットのように巨裂牟(ゴレム)を宙へと突き上げた!

 それを見た(そう)が、シッポを使って俺を前方の──(くう)を舞っている岩ムカデへと投げつける。

「なっ──!」

 (そう)はそのまま地上を疾走し、未だ柱のように上へ伸びている地面を──信じられない速度で垂直に駆け上り、放たれた矢のように飛び上がった!


「 シャッッ! 」


 左右のツメでバツの字に斬りつけると、(にぶ)くも鋭い音と共に巨裂牟(ゴレム)の頭部が四つに割れて、赤黒い炎が(あらわ)になった!



『  ド ク ン  』



 手に持つ枝が、()えるように脈打つ── これを……使えってことか!?


 巨裂牟(ヤツ)の急所──変色した炎はすぐそこにある! けど! あぁくそっっ! このままだと少し届かない! (そう)のヤツ 狙いがズレてんじゃねぇか!



『 フボォン 』



 背中に、覚えのある柔らかい突風……これは……綿疾風(わたはやて)……


──お初さん アンタって人は……!! だがこれで──ドンピシャだ!



 距 離 !  角 度 !  申 し 分 な し !



 〝八百万樹の枝(コイツ)〟で ぶっ叩かれりゃ! ちったぁ正気に! 戻るかよ!


「 うおおおおおおおっ! 」



 渾 身 の 一 振 り !



──しかし! 斬りかかった瞬間、巨裂牟(ヤツ)の炎は飛沫(ひまつ)のように分散し──そしてすぐさま、再び一つに融合を果たしやがった!


 はずした!? いや! わずかにだが……手応えは確かにあった!


 赤黒い霊魂が、割れた頭部の一つへ滑り込むように取り憑いた時──なにかの欠片(かけら)が落ちるを見た。それを目で追いつつ俺は──


 ドスン! 


──と、地面へしたたかに落下した。

「痛っっっっっっ!」


「オ゛……ノ゛……レ゛……」


「──っ!」


 ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ ッ !


 共に落ちた岩石から霊魂が抜け出し、地中へとその身を沈め、蛇行をしながら草原を掻き分け、物凄い勢いで彼方へと消えて行った。


「逃げ……たのか……?」

 巨裂牟(アイツ)が落とした欠片(かけら)を拾いあげる。

「これは……」

 いや違う! こんなのは後だ! 今は──


「ニ゛ャーッ! ニ゛ャーッ!」


「──!!」

 お初さんを尾で抱えた(そう)が、狼狽(ろうばい)しながら駆けてきた。

「お初さん! 返事をしてくれ! お初さん! 初風! おいっ!」

 お初さんはぐったりとして、こちらの呼びかけに応じない。

「ど……どうすりゃ……輸血! なんてここじゃ……」

「ニャーニャフニャッフ! ニャーニャフニャッフ!」

「ニャーニャフ……それ前にも──樹液か! それだ! (そう) 頼む!」


 俺とお初さんを背中に乗せ、(そう)疾風(はやて)のように走り出す!


 あっという間に、いつも樹液を飲んでいる場所へ辿り着いた。

「確か一頭身の飲み食いは、身体へ押し込むように──」

 お初さんを樹液へと押しつける!

「お初さん! 八百万樹の樹液だ!」

「ニャー! ニャー!」


 頼む! 飲んでくれ! 効き目 あってくれ!


 しばらく反応がなかったが──手が! ピクリと動いた!

「ぐ……」

「お初さん!」

「ニャアー!」

「ぐるじい……」

「大丈夫! 八百万樹の樹液だ! 苦しくても頑張って飲んでくれ!」

「ぐる じいの は……万超(アンタ)が……」

──ん?

「 押 し つ け 過 ぎ だ か ら で し ょ ー が ぁ !! 」


『 キュッピィィィン! 』


「 ふ げ ぇ ー ! 」

 回し……蹴り!?

「もう! なんなのよ!」

「お初さん! よかった! 死んじまったかと──」

「ニャアァー! ニャアァー!」

 (そう)がこれでもかと顔を、身体を、お初さんへこすりつけている。俺もお初さんが意識を取り戻したのは何よりも嬉しい……だが!

「 はぁぁ ー つぅぅ ー かぁぁ ー ぜぇぇぇー 」

「あぅ……」

「俺……怒ってるぜ」

「ハハ…………ゴメン……ちゃんと……後で怒られるから……今は……ちょっと……」

「──お初さん!?」


 また意識を失っ……いや、眠っただけだ……寝息が聞こえる……。



 お初さんを抱え、俺達は地下の隠れ家へと向かう。ゆっくり休ませないと……。


 それに俺も、(そう)でさえもフラフラだ……少し……横に……とにかく……疲れた…………。



 こうして、突然訪れた──俺と(そう)にとっては初めての──実戦は、幕を閉じたのだった。

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