第34話
ボーンが魔法で敵の翼人たちを相手している間に、俺は、ロンドとエルの猿轡をとってやる。
……一応、ついでにリリーの猿轡もとって、ローブも羽織らせる。
そして、念動魔法で首輪を引き千切る、……千切る、……千切ろうとするが、首輪は傷一つつかない。
首と首輪の間に剣を入れてみたりもしたが、外れない。
どうやっても外れないので、天空島に戻ってから何とかするしか無いかと諦めかけた時、ふと思いついて首輪と指輪を近づけて外れろとイメージを込めてみる。
するとあれだけ頑丈だった首輪が、あっけないほど簡単に外れた。
やっと、ほっとする一方で、首筋に付いた傷が痛々しい。
俺が首輪を外し終わる頃、ちょうどボーンの魔法が終わっていた。ボーンの魔法が吹き荒れた後には、リリーと五人の女性翼人意外、生き残った翼人はいなかった。
リオは、ピクリとも動かない。
自業自得とはいえ、あの様な最後は、哀れなものだ。
しかし、ここで感傷に耽っている暇は無い。
外には、数百人の武装した翼人がいるのだ、完全にはまだ安心出来ない。
もっとも、ロンドとエルを確保した今となっては、このまま限定転移魔法で天空島に帰還しても良いし、ボーンと共に外の虫けらどもを叩き潰しても良い。
どちらであろうと、問題の無い事だ。
ただその前に、俺の甘い判断からこのような事になったロンドとエルには、一言かけておくべきだろう。
「ロンド、エル」
俺が呼ぶと、二人が顔を向けてくる。
俺は一呼吸置いて、
「迎えが遅くなった。
許せ」
心からの謝罪。
本当の心からの一言。
まだまだ、言い足りない事や、謝りたい気持ちが、山の様にある。
しかし、それをする事を許されない立場というものが、いまは恨めしい。
エルは一言「うん……」と答える。
ロンドは、ただ俯いたまま首を左右に振る。
「わ、私は、……責務を全う出来ませんでした」
そう言って、ひたすら、頭を垂れる。
ここまで追い詰められながらも、まだ、俺の命令を守ろうとしていたのか。
俺が他人の目を気にして、他人からの悪い評価から、自らを守ろうとしていたあの時から変わらずに。
本当に守らねばならないもの、大切にすべきものを見失っていた。
言葉では、言い尽くせない慙愧の念。
もう、きっと繰り返さない、間違えない。
俺は改めて、強く心にそう決めた。
「良い。
それよりも、大事はないか?」
俺に出来る、最大限の穏やかな声で問う。
「はい……」ロンドが頷き、涙を一筋零す。
そっと涙を拭ってやれば良いのだろうが、ここでそれが出来ないところが、俺の駄目なところなのだろう。
しかしここまで耐えてくれたロンドに、俺は恥ずかしさを我慢しながら、出来る限り最大の勇気を振り絞って、頭をポンポンと軽く叩く。
……撫でることすら出来ない自分が、情けない。
ロンドは嗚咽を堪えて泣いている。
しばらくして、ロンドが呟いた。
「……申し訳ございません」
「何を言う。申し訳ないことなど何も無い」
「お、……お、御方様のお手伝いが少しでも出来ればと思いましたが……。
でも、余計な手間をお掛けしてしまいました……」
……本当に俺は駄目な奴だ。
なぜ、こんなにも純粋に俺を想う者を、あんなに簡単に行かせてしまったのか。
なぜ、天使だなんだと、視野を狭くして、浮かれてしまったのか。
気にすべきは他人の目ではなく、本当に大切な者達を気にすべきだったのに。
万が一、代理が必要な場面であったとしても、眷属たちを第一に考えれば、こんな事態にはならなかった。
思い出せば何度だって悔いが残る。
護衛や通信手段。
色々、防衛手段はあったのに……。
俺は、他人の目を優先した。
申し訳ないのは、俺の方だ。
「御方様……」
ロンドが言いかけて、言葉を飲み込む。
「どうした? 申してみよ」
俺がそう言うと、ロンドはまた口を開くが、しかし、ためらって閉じてしまう。
俺はロンドの背中を撫でながら、ロンドの言葉を待つ。
すると、ゆっくりと顔を上げたロンドが、涙を目に浮かべながら、
「申し訳ありません、……御方様」
また謝って来る。
「ロンドが謝る事など何も無い」
俺がそう言うと、ロンドは悲しげに首を振り、下を向く。
そして、
「わ、私は、役立たずですが、……。
もし、……もし、お許しいただけるのなら……。
……どうか、御方様の天空島において頂けないでしょうか?」
最後は口元を震わせながら、大粒の涙をポロポロと零すロンド。
……なぜ?
なぜロンドが謝る?
なぜ、悪くないほうが、謝る?
なぜ、俺はロンドを謝らせている?
なぜ、天空島に居て良いかなどと、許可を求めさせている?
許可など要らない。
居てくれなければ困る。
そんな事、言わないでくれ、……。
……。
解っている。
全て解っている。
俺自身の問題だ。
「……すまなかった。
お前は悪くないのだロンド。
全ては、我が責任。すまない……」
そっとロンドを抱き寄せると、「ち、違います。御方様の責任ではございません。私、私が……」そう言って自分の責任だと涙を止めない。
「許してくれ、ロンド……」
あの時、俺がここに来たと知った時も、拘束の魔法具に乗ろうとした時も、あんな目にあっている自らを助けてもらう安全よりも、俺が逃げるように促していた。
もはや、立場があるからなどと言い訳せずに、正直に気持ちを話すべきなのだろう。
「お前の居ない天空島など、考えられないし、考えたくも無い。
我と共に、いてはくれないか?」
「そ、そんな、私は、ただの役立たずなのに……御方様……」
もうこんな事は言わせないようにする。
本当に、すまない。
俺が、未熟だったから。
きっと今度は間違えない。
大切な事を間違ったりしない。
だから、……だから今回だけは、……今回だけは。
許してくれ、……。
「……すまない」
ロンドが安心するようにと、笑いかけてやると、ロンドは声を出して泣き出した。
子供のように涙が止まらないロンド。
「御方様、御方様」としゃくりあげながら泣き続ける。
俺は「許せ」と言いながらロンドをそっと抱き寄せ、ロンドが落ち着くまで、頭を優しく撫で続けた。




