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第32話

 眷属ロンドの視点


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 私とエルは翼人たちの罠にはまり、捕まって首輪をつけられた。


 その瞬間、まったく何も理解できなかった。

 何が起こったのか?

 私は、ただ御方様の役に少しでも立ちたかっただけ。

 でも、御方様から託された使命は?


 私は、失敗したのか?


 何が悪かったのか?

 どこで間違えたのか?


 御方様に任された使命を全うできなかったショックで何も考えられない。


 気が付けば、エルと一緒に、何も無い部屋に押し込まれていた。


 ? しかし、なんで女性の翼人が一人いるのだろう? 

 確か名前はリリー。


 しかも私たちと同様に首輪をされて、この部屋に閉じ込められている。

 必死で私たちに謝ってくるが、どう答えるべきか解らない。


 何をすればいいのか解らない。

 どうしたら良いのか解らない。


 もう何も解らない。

 何故こんな事に?


 このような場所に閉じ込められた心細さからか、私が茫然自失でいるから元気付ける為か、エルが私の手を、ギュッと強く握り締めてくる。

 そう言えば、私がしっかりしなくてはと思っていたのに、あの魔法陣の上で罠に嵌まったと知れた時に、私は動けなかった。

 即座に動き、私を突き飛ばして助けようとしたのはエルだった。


 エルは、見た目以上にしっかりしているのだろう。

 いまだって、たぶん私の為に手を握ってくれているのだ。


 それなのに私は、何も出来ていない。

 私は、ただ御方様に喜んで頂きたかっただけ。

 御方様のお心を悩ます原因を一つでも取り除ければと、そう思っていただけなのに。


 何も出来ない役立たず。


 私とエルが出発する前、御方様は心配そうに「楽しんでくれば良い。無理はするな」と言っていた。

 御方様に喜んでいただく為の無理など、無理の内に入らない。

 御方様のために出来る無理など、むしろ喜ばしい事。

 そう思っていたのに……。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




 部屋に閉じ込められて、どれくらい時間がたったのだろうか?


 リリーという翼人が、首輪について説明してくれた。

 この首輪は奴隷に嵌める首輪らしい。

 中々頑丈なもので、引っ張っても千切ろうとしても、取れる気配は無い。

 リリーの説明では、この首輪は奴隷の主人が嵌める指輪と連動していて、命令を無視すると首が絞まるらしい。

 そのため、リオの命令には逆らわないようにと忠告を受けた。

 それと、敵対行動と逃亡も首輪が締まる為、絶対やってはいけないと言われた。


 でも、リオ?

 一瞬誰の事かと思ったが、すぐにあの薄気味悪い笑顔の男のことだと思い出した。

 私とエルを罠にはめた張本人だ。

 どうでもいい存在過ぎて、忘れていた。

 私にとって、あの男などその程度の価値だと改めて思った。


 そんな風に、どうでも良い男の事を考えていた為だろうか?


 気が付くと、その張本人、リオという男が私の前に立っていた。


「お前らは僕の奴隷だ!

 立てー!

 ケヒヒヒヒィィィッッ!!!」


 リオが何か喚いている。

 私がぼんやりとその様子を眺めていると、いきなり首を絞められた。


 いや、首にある首輪が閉まって来る。


 苦しくて首輪を取ろうと手を首に持っていこうとした瞬間、両の手首をリオに掴まれた。

 リオは私の手首を捻り上げ、「サッサと立てー! そしてご主人様に挨拶をしないかぁー!」と叫んでくる。


 その瞬間!


 エルが懐からナイフを取り出すと、リオの左手を貫いた!


「ヴッーー!!!!!!!!!!!!」


 リオが声にならない声を上げる。

 エルとリオが取っ組み合いになって、床を転がる。

 エルは必死でナイフから手を離すまいとしているが、首輪が締まり手が緩む。

 すると体格に上回るリオが手を振り回し、エルの腹部を蹴り上げる。


 同時にエルが壁まで吹っ飛んだ。


 ナイフをリオに突き立てた行為のためか、エルの首輪がギリギリと締まって行く。


「エル!」私はエルのもとへ駆け寄ろうとして、……。


 またリオに手首を捕まれた。


「お前はこっちだ!」


 リオは左手から血をダラダラと流しながら、私を掴んでエルとは反対側の壁に叩きつけた。


「リオ! 止めなさい!」


「隊長! 一体何を!」


 リオとエルの格闘が始まった瞬間、部屋を飛び出していたリリーが、数人の女性翼人を連れて現れた。

 リオが一瞬怯む。

 しかし、その後から、


「女どもは、どけっ!」と怒鳴り散らしながら、男性の翼人たちが乱入してくる。


 エルは男性翼人たちに、


「こ、この狂犬どもを拘束しろ!

 僕の手にナイフを突き立てやがった!

 ふ、服だ!

 服の中だぁー!

 武器を隠し持っていやがるかも知れないぃぃ!!!!!!」


 気の狂ったような絶叫する。

 そしてすぐ、私に迫ってくる!


 私はそれを必死で避けて……。

 エルのもとへ……と駆け出した時。

 リオに、服を捕まれバランスを崩す。


 受身も取れず、勢いそのままで頭を床に強く打ち付けた。


 ……そして私は、そのまま意識を失った。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




 夢の中にいるのか、ぼんやりした気分だ。

 何か色々あったはずなのに、頭が回らない。


 ふと、御方様の笑顔を思い出す。

 とても楽しそうな笑顔だ。


 まだ一緒に居る時間は少ないが、とても大好きな笑顔だ。

 見ているだけで、幸せになってくる。


 私を生み出してくれた御方様。

 いつもは難しい顔で色々考え事をしていらっしゃるけど、私たち眷属と一緒に居る時は、とても楽しそう。


 私が生まれた瞬間もそうだった。


 私の前に、ボーンが生まれていて、二人並んで跪いていると、


「よく俺のもとへ生まれてくれた。ありがとう」


 そうおっしゃって、少し照れくさそうに笑っていらっしゃった。


 私はその御方様の顔を見て直ぐ、感じて、解って、理解した。

 私の全てを捧げるお方は、この御方。


 自らの魂を削り、私を生みだした御方。

 生ある限り、お側に侍り御仕えする。

 友情、慕情、愛情、全ての愛と情を超えたその先にある、心を捧げるべき御方。


 何故か、見ているだけで、涙が出そうになる。

 この感情を何と言うのかは解らないけど、一つだけ確かな事は、この御方が私の全て。


 あの笑顔が私は大好きだ。




 ……そういえば、笑顔だったら、あの日の事もあった……。

 そう、御方様のお身体が優れない日が続いて、皆でカルーバを食べていると、


「カルーバばかりで、すまんな……」


 と、とても悪そうに、私たち眷属に謝られた。


 悪いのは、私たちなのに!

 生まれたばかりとは言え、何も出来ずに御方様の食料をただ頂くなど……。


「そんなことございません!

 私はとてもありがたく頂いております」


 私がそう言うと、


「ありがとう。

 ロンドは優しいな」


 あの笑顔でそう言って、私に笑いかけてくださった。

 私だけに、私に向けて、笑ってくださった!


 しかも、


「だが、無理はするな。

 何か不満があれば、いつでも言うといい」


 そう言って、また笑ってくださった。


 不満などあろうはずが無いのに。

 御方様のおそばに居させて頂くだけで、十分以上の幸福なのに。


 不満があるとするのならば唯一つ、私が御方様のお役に立てていないこと。


 ほんの少しでも、御方様のお役に立ちたい。

 御方様の負担を減らして差し上げたい。

 それが出来ていない事が、唯一不満といえば不満。


 だから私は翼人たちのところへ、御方様の代理として行って……。

 行って……?


 そうだ! 罠にかかったのだ!


 私が我に返り、ふと顔を上げると、遠くから御方様が私を心配そうに見ている。

 何故、御方様が?




 一瞬の間の後、瞬時に全てを理解した!




 私が呆けている間に、事態が動いたのだ。

 御方様が私とエルを助けにこられたのだ。

 御方様の後ろにいる甲冑の戦士は、恐らくボーン。


 御方様が軽く頷いてくる。




――心配するな。助けてやる!




 眷属ゆえか、御方様への想いの強さゆえか、言葉にしなくとも御方様がそう伝えてきた事は、はっきりと解った。


 何と言う事をしてしまったのだろう!


 御方様を、こんな敵地に呼び寄せてしまった!


 逃げて下さいと必死で首を振るが、御方様の意思は変わらない。

 御方様は優しい笑顔を私とエルに向けた後、リオを睨み付けている。


 なんて役立たずな真似をしてしまったのだろう。

 御方様に託された使命を果たせないばかりか、このような事態を招くとは!


 呆れられてしまう!

 見放されてしまう!

 もうお傍にいられなくなるかもしれない!


 その時!

 エルが私の手を強く握ってきた。


 私を安心させるように。




 私は、……自分の事ばかりだ。

 御方様にも、エルにも申し訳ない。


 役立たずの、自分の気持ちばかり考える愚かな存在。


「跪け!」


 突然リオがくだらない命令をしてくる。


 いまはそれどころでは無いのだ!

 何を言っているのだ、この男は!


 そもそも、死んでもお前になど屈さない!

 例えこの首が千切れ飛ぼうとも!


 役立たずであっても、御方様に捨てられる事になろうとも、私は誇り高き御方様の魂の系譜に連なる者!


 絶対に!


 膝をつく事は!


 無いっ!


 私とエルがそうやって耐えていると、あろう事か、御方様があの罠である魔法陣の上に乗ろうとしている。


 エルと一緒に必死で止めようとするが、御方様はもう一度、私とエルに頷いて笑いかけられた。




――大丈夫。

――心配するな。

――絶対に助ける。




 私は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、必死で首を振るが、御方様はそのまま魔法陣に足を踏み入れた。


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