第28話
朝起きると、俺はベッドの中にいた。
一瞬、事態が飲み込めなかったが、落ち着いてくると、昨日のことを思い出した。
体調が、昨日よりも少々悪い。
……結局、ロンドとエルは見つけられなかった。
焦りが募る。
すぐ隣では、レオが伏せをしている。
いつもは、昼間でも寝ているレオが、起きている。
寝ていないのか?
心配してくれて、ずっと横にいたのだろうか?
もはや、我慢も限界だ。
どう思われようと、翼人たちのルル島に行こう。
「訪問を取りやめにした割には、意外とお元気ですね」などと嫌味を言われても、「直りました」と正直に言えば良いだけだ。
もっとも昨日と違い、今日は若干体調が悪い。
昨日の内に行ってしまえば良かった。
日本人的な、相手に気遣う姿勢が裏目に出た。
ロンドとエルにも、連絡手段を持たせていない以上、その日のうちに帰って来る様に厳命して置くべきだった。
……でも相手への気遣いとは言い訳だな。
単に相手の目を気にしただけだ。
しかし今は大丈夫だと思うが、ロンドとエルが心配で仕方が無い。
直ぐにダンジョンコアルームに眷属を集める。
俺がロンドとエルを迎えに行く旨を、眷属に話そうとしていると、
ビィー、ビィー、ビィー、ビィー、ビィー
と警報が鳴った。
スピードに配置させておいたマジックアイテムの、侵入者用警報装置だ。
城の中心から、円球状に広がって探知する警報装置。
探知可能な半径としては、設置場所から大体1キロメートル辺りまでは探知できる。
すぐさま、ダンジョンコアに城周辺の映像を映す。
「これは?」
「翼人のようでございます」
俺の呟きに、ボーンが答える。
「完全武装しているな? どれくらいだ、三百人はいるかな?」
「はい、恐らくその程度かと」
「ロンドとエルはいないな?」
「はい。確認できません」
随分と、物騒な事をしてくれる。
俺の天空島に、無断で武装した部隊が上陸するとは。
まだ、敵対すると決まったわけではないが、……正当防衛なら躊躇わないぞ?
城門のところまで来た翼人が、「ダンジョンマスター、ルイ・アリスに話がある。面会を望むものである」と大声で叫んでいる。
前から知っていたが、ダンジョンコアの映像は、音声も拾える。
随分とクリアに聞こえると今回確認できた。
いまは、どうでも良いことではあるが。
「シルバ、迎えにいって、謁見の間に代表者のみ通せ。
妙な動きをする場合は、……」
……。
「必要なら、殺せ」
「はっ。すぐ、引っ立ててまいります」
いや、まだ、引っ立てる前提では無いぞ。
何か事情があるかもしれない。
……三百人からの武装した者達が来る事情?
いや、しかし、万が一と言うことが……。
俺はもう油断しない為に、あくまで必要なら……。
俺もロンドとエルが心配すぎて、ちょっと過激なことを言ったかな?
やはりシルバだけだと心配だ。
俺の指示を、過激な解釈してしまいそうで……。
「レオ、スピード。お前らも付いていけ。
敵対する場合は、情報を引き出したい。なるべく殺さず無力化しろ」
「ガウ!」
「御意!」
レオとスピードが、承知の意を示す。
心配なのは、シルバだ。
「シルバお前もだぞ」
すでに、限定転移魔法で飛ぼうとしていたシルバにも、釘をさしておく。
「解りました。拷問して口を割らせるのですね」
「え? おいっ! 殺したり過激なのは、必要な場合の……」
俺の話が終わる前に、シルバは限定転移魔法が発動していた。
凄く嬉しそうな顔をしていたような……。
直後、レオとスピードも飛ぶ。
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謁見の間。
いまだに、ただ広いだけの空間。
自分の知る、どの大広間よりも広い。
ドーム球場のような広さ。
しかしそれでも、言ってみればただそれだけの部屋。
一応、上段下段はある。
さらに、上段の上、俺と側近の侍る最上段も作ってある。
俺の座る椅子は最上段の更に上、段差を設けて高く設定している。
そして俺の周りにはビロードの絨毯を敷いて、僅かばかり飾り付けているが、この広さに対しては焼け石に水。
逆に浮いてしまい貧相に見える。
しかし今は、この謁見の間にて翼人と会う事がそれでも必要なのだ。
俺の許可もなく、三百名からの武装集団で乗り込み、ロンドやエルも帰って来ない。
この天空島、この城、眷属たちの支配者として、彼ら翼人たちと向き合う必要がある。
ここまでされて下手に出れば、次は何が出てくるか解らない。
シルバたちを迎えにやらしてから、もう一度考えて見た。
いまにして思えば、翼人たちの事など、ほとんど何も知らない。
まったくの他人だ。
彼らは、天使ではない。翼人なのだ。
それを、異世界の天使だ、天使に見える美しい翼人だとか、勝手に地球の天使に結び付けて無意識に信用してしまった。
それでも、まだ信用しきってはいけないと、気付くきっかけはあったのだ。
エルが有翼の人だと知ったときに、評価を仕切りなおすべきだったのだ。
しかし、天空島や城を持って、気の大きくなっていた俺は、油断した部分があったのだろう。
ぺらぺらと余計な事を喋っていたりもした。
彼らは、天使などではなかったのに!
勝手に信用度を上げていたのだ。
俺自身が、俺の中で!
それが、今回の訳も解らない展開の真実だ。
今回の責任は、全て俺の甘さに帰結する。
ここは安全な日本では無いと思うのは、何度目だろうか。
万一、全てが俺の早合点で、彼らが善人であるのならば、後で誠心誠意謝ろう。
しかし今はその時ではない。
俺の傍に控える眷属たちにも、「もはや遠慮は無用、油断するな」と伝えてある。
謁見の間に二人の翼人をシルバたちが連れてくる。
以前来た時に、見た顔の男たちだ。
翼人たちは気負う事もなく、そのまま大股で歩いて上段ギリギリのところまで来る。
「それ以上進むな!」
俺の傍で控えていたビアードが、大声で翼人たちに制止を命じる。
そして、ボーンが低く重々しい声で続ける。
「跪け!」
それ対して、翼人は不快気に応じる。
「我らは、家来でも奴隷でもない。対等な者としてここにいる。跪くいわれは無い」
それを聞いたシルバ、そしてその横にいたスピードとレオも殺気立ち始める。
「貴様っ! アリス様を侮辱する気か!」
「シルバ、そのままで、良い」
俺は、眷属を落ち着かせるために、ゆっくり、笑顔でそう言う。
まだ争う気は無い。
話を聞いてからだ。
だからといって遠慮をする気も無いが。
そして俺は、翼人に目を向ける。
「俺は、いま忙しい。要件を早く述べろ」
一瞬、虚を突かれたような顔をして、代表者の一人が咳払いをする。
前回と比べて今回の俺の態度が違い、驚いているようだ。
やはり前回は舐められていたのかな?
ボーンは、いま全身甲冑を着て顔を隠しているが、本来の姿を見たら、虚を突かれた位では済まぬ顔になるだろう。
翼人はフンッと鼻を鳴らし、話し始める。
「ロンドとエルの両氏には、我々一族の秘宝である魔道具に勝手に触られ、しかもこれを壊された。
その際、両氏は怪我をして、いまはルル島、長の屋敷にて臥せている」
俺が昨日見た限りでは、ルル島のどこにもいなかったが。
見落とす可能性もある。
嘘だと断言できる証拠は無い。
……しかし、ロンドとエルが勝手に秘宝に触って壊した?
まだ一緒に居た時間は短いが、魂の繋がりがある。
気質は心得ている。
とても、そんな事をするとは考えられない。
「リオ様は問題が大きくなる前に、直接、話がしたいと仰せだ」
これだけの兵たちを送り込んで来て、話し合いか。
よくも、ぬけぬけと言うものだ。
「では、さっさと皆で行こうか。
案内してもらおう」
言いがかりと解っていても、今はまだロンドとエルの無事を確認し、確保することが大切だ。
言いがかりをつけて、壊れた秘宝を弁償しろと言うのであれば、弁償してやろう。
財宝が欲しいならくれてやろう。
こちらが可能な事であれば、たいていの要求はかなえてやる。
取り敢えずは、ロンドとエルが無事ならば、今回だけは多めに見るが、こいつらは俺の味方では無い。
敵に近い。
……いや敵か?
まだ最終的には解らない?
――俺も大概、優柔不断だな。
でも、この世界の敵味方は、即ち命のやり取りに直結する気がする。
俺の中で、そこまで彼らを敵視して良いのか解らない。
日本国内ならば、敵味方でも嫌がらせ程度で済む話だ。
場合によっては弁護士を雇って、といったところか。
でも、ここまでされたら、日本だったらどうだろう?
どう判断すべきだ?
明らかに嘘臭い難癖に、武装集団の進入。
そして、話し合いと称して俺を連れ出そうとしている。
そこまで考えたところで、翼人が口を開く、
「いや、私はここに残らせてもらう。そういう命令だからな。
案内は、十人ほど付ける。
あまり大人数でこられても困るので、従者は二人までにしてもらう」
翼人が、また訳の解らない事を言う。
「何?」俺は、本当に意味が解らず、問い直す。
見詰め合う、俺と翼人。
あちらは睨み付けてくるが、俺は困惑する一方だ。
しばらく、沈黙が続く。
それを俺の拒絶と見て取ったのか、ずっと黙っていた翼人が、
「リオ様はお優しいお方ですが、現地には、血の気の多い者がおります故……。
ロンドとエルが心配でしょう?
どうぞ、お急ぎ下さい」
そう言って、脅して来た!!!!!!!!!!!
――いまの発言! ロンドとエルを誘拐して、その上で脅迫しているのだな! 俺はそう受け取るぞ!
沸き起こった怒りを飲み込み、俺は、「準備する」と言って、翼人たちを下がらせた。




