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第26話

 女性翼人、リリー・ド・レナルの視点


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 あの天空島での衝撃的な会談が終わってルル島に着いた直後、リオは天翼部隊の隊員に、


「今日の会談については、その一切を決して漏らしてはならない。例え家族、親兄弟、恋人であっても」


 と命令した。


「相手が奴隷化されていないダンジョンマスターだった事は、あまりに衝撃的過ぎてパニックが起こるからだ。

 更に言うのならば、僕の見た限り『天を駆る導きの翼』であるかもしれない翼人は洗脳魔法で操られていた」


 と言われた。


 確かに、管理もされていないあんなに規模の大きなダンジョンが、ルル島の直上にあったら、恐怖でまともな日常生活は出来ないかもしれない。


 リオは長老たちと対応策を練ると言って、その場を早々に後にした。

 五人の男性隊員が、リオに呼ばれてついて行った。

 彼ら五人はリオの信奉者たちだ。


 ルル島とその周辺諸島の中でも、最強天翼部隊の若き隊長。

 次代のルル島の長、筆頭候補。

 神童と呼ばれた魔法使い。


 若い翼人の中には、リオに憧れ崇拝するものは多い。

 確かにリオも、それだけの才能は持っている。


 べたべた触ってきたりするので、私はそこまでリオに親近感が沸かないのだけど。

 ……本当にいずれ夫婦になるのだろうか?

 周りにはすでに決定事項と認識されているようだけど……。


 私は女性五人の隊員たちと残され、お互いに目を合わせる。


「……始祖様が」


 隊員の一人が、そう言った。


「うん」


「始祖様だった」


 皆が頷きあいながら、同意する。

 皆どうして良いのか解らないのだ。


 あの、伝説の始祖様が現れたのだ。

 天空島と共に。


 ――いつか『天を駆る導きの翼』が、天空島と共に現れ、古き歴史の時代と同様に、私たち翼人を天空島に導く。――

 ……多くの場合、その姿は始祖様の姿として描写されている。


「どうする……?」


「洗脳魔法がかかっているって、隊長が……」


 呟きが、誰からとも無く漏れる。


 『天を駆る導きの翼』が、始祖様が、ついに現れたのだ。

 本来であれば、皆に教えてあげないといけない。


 ……でもそこには、奴隷化されていないダンジョンマスターがいる。

 さらに洗脳魔法に掛かった始祖様。


「本当に洗脳魔法にかかっているのかな……?」


「みんな解らないよね……魔法に一番詳しいのは隊長だし……」


「話し合いで……始祖様と天空島を譲ってくれないかね……」


 最初に口を開いた隊員が、無理だろうけどといった表情で言う。


 確かに無理に決まっているが、そう思うのは、よく解る。

 天空島を譲るダンジョンマスターなどいないだろうが、……でも、始祖様は?


 ダンジョンマスターなら、部下や配下のモンスターはさぞ多いだろう。

 始祖様のたった一人で良いから、私たちのもとへ……。

 生まれたばかりで、まだ配下が少ないのなら、配下が増えてからでも良い。

 ……無理だろうか?


 あのダンジョンマスターは、話の解る感じがした。

 話の持っていきかた次第では、あるいは?

 交渉材料に、飛空石だってある。


 飛空石の事は知らなかったようだが、その価値を知れば、きっと驚く事だろう。

 ……まあ、あれだけの城を保有するダンジョンマスターだから、どこまで興味を持つか解らないけど。




 しばらくすると、リオが戻ってきた。


 相変わらず決定が遅く優柔不断な長老たちは、天空島が敵対勢力だと聞くと半ばパニックになり、全ての判断をリオに一任したようだ。


 ただし、ダンジョンマスターの存在については、長老たちにすら黙っていたらしい。

 なぜか情報を独占しているきらいがある。

 ……何か企んでいる?

 いや、それは考えすぎか。




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 その後リオは、天翼部隊の隊員と自分を崇拝する仲間だけ(・・・・)を集合させ、その前で、ダンジョンマスターを生け捕りにすると宣言した。

 そして、天空島を手に入れた暁には、ルル島と周辺諸島から希望者を募り、移住すると言う方針を表明した。


 危険のある任務だが、成功すれば栄達は保障するといわれ、皆、盛り上がっている。

 宝物の間から強奪する宝が目的の者も多い。

 その数は、三百五十名を上回った。


 そして更にリオは、自分を崇拝しているわけでなく、宝物に目を奪われない腕利きの戦士達を別の場所に集め、「天空島で洗脳、監禁されている『天を駆る導きの翼』たる始祖様を助けだす」と言って、三百名以上の腕利き戦士を配下に加えることに成功した。


 ……なぜかダンジョンマスターの件は隠していた。

 理由を聞いたら、天空島とダンジョンマスターを先に奪われたくないと言っていた。

 ……よく理解できない理由だった。


 もはや、リオに反対するものはいない。

 ルル島一の武闘派勢力である。


 でも、始祖様は、本当に洗脳されていたのだろうか?

 とてもそうは見えなかったけれど。


 念の為もう一度リオに確かめたが、洗脳魔法がかかっていたと、その時も言い切っていた。

 確かに始祖様に対してそこまでするダンジョンマスターなら、交渉は期待出来ないかもしれないけど……。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




 いまルル島には、偶然、奴隷商人が来ていた。

 最近、ルル島と周辺諸島に、半魚人の侵入が増えて争いが多くなっている。

 そこで戦闘奴隷を買って奴隷に警備と戦闘をさせよう、と言う話になっていたからだ。


 この話を主導したのはリオ。

 私は、ルル島に奴隷を入れるべきか正解が解らないけど、ルル島のほとんどの仲間たちはその案に乗り気だ。


 確かに翼人の犠牲は減らせる。

 しかも、私たちには飛空石が採取できる島が幾つかあるから、お金には困っていない。

 そもそも島同士の物々交換程度で、大体のものは賄える。

 たまに来る外部の商人から嗜好品を買うぐらいしか、お金の使い道も無い。


 島の財政は潤おう一方だ。


 ただ、自分たちの島、自分たちの家族や大切なものを、自分たちで守らずに奴隷に任せて良いのだろうかと、ふと思ったのだ。

 そう話したら、リオにちょっと嫌な顔をされて、難しい言葉で説得された。


 ……難しい事を考えるのと難しい言葉は、ちょっと苦手だ。




 リオにとっては嬉しい事に、奴隷商人は強力な奴隷化の儀式魔法が出来るらしい。

 ただ、自分だけでは魔力が足りない可能性があるから、魔法玉を用意して欲しいと言ってきた。

 魔法玉は、魔力の詰まっている特殊な宝玉だ。

 魔力の補充に使ったり、特殊な魔法具の材料になったりする。

 大変高価で、おいそれと用意できるものではない。

 しかしこれに関しては、島の宝として存在する魔法玉が使えるらしく、あっさり問題解決となった。


 ただ、まだ問題はある。

 この奴隷商人は、魅了魔法、隷属魔法、闇魔法は出来ないから、奴隷化が甘くなる可能性があるらしい。


 するとリオがどこから知ったのか、ルル島及び周辺諸島のはずれにあるウク島、このウク島にある百年も前の拘束魔法具を提案した。

 もともとは、罪人をウク島にある拘束魔法具で身動きできないようにして、罰を与える為の魔法具だったらしい。

 しかも、この魔法具は、魔法玉などで魔力を注げば、精神と魔力さえも縛ってしまう強力な魔法具らしい。

 この精神と魔力すらも拘束する魔法具の仕様を聞いた奴隷商人は、魔法玉を使い、さらに呪文を必要とする特殊な儀式魔法と、専用の首輪を使えば、強固な奴隷化が出来ると請負った。


 念の為、後でまた魅了魔法、隷属魔法、闇魔法など、重ねがける事が必要だが、一応の処置としては大丈夫らしい。


 ただ拘束の魔法具は、厚さ30センチメートル、半径3メートルほどの、巨大な金属板だった。

 この金属板の上に対象の人物を立たせて、専用の合言葉で縛り付けるらしい。

 しかしこの大きさと重量では、とてもすぐに運んで動かせる代物ではない。

 この為、拘束の魔法具はその場で使用する方向で計画が進んだ。


 リオの事務処理能力の高さ故か、準備は着々と進んでいく。

 しかし、最近リオがニヤニヤ笑ったり、「ケヒヒッ」といった、気味の悪い声を出す。


 皆の為に、心を鬼にしてダンジョンマスターを奴隷化し、始祖様を助けると言っていたけど、大丈夫だろうか?




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 ……ついに、その日が来た。

 いや、来てしまった。


 必要な事とは言え、相手の意思に反して無理やり奴隷化するのは嫌なものだ。

 ダンジョンマスターと話し合いでは駄目なのかとリオに聞いてみたが、まったく相手にされなかった。



 ちょうど正午過ぎ、迎えに出た三十人ほどの部隊が遠くに確認できた。

 用意していた籠は畳まれている。

 使用していないようだ。

 さすが天空島のダンジョンマスター、飛べるのだろう。


 しかし、しばらくして現れたのは、始祖様と同じお姿を持つ翼人と、会談の席にいたエルフのみ。

 リオがダンジョンマスターが来ていない事を知ると、癇癪を起こした。

 初めて見るリオのそんな姿に、私の中で何かが冷めて行く気がした。




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 大変な事が起きてしまった!


 本来、ダンジョンマスターに使うはずだった拘束魔法具の罠を、始祖様とエルフに使用して、あろう事か奴隷の首輪をはめたのだ。


 こんな暴挙、聞いていない。


「何故こんな事を!」


 私がリオに抗議すると、


「ああ、大丈夫だよ、リリー。

 ただ首輪をして、逃げたり、逆らったり出来ない様にするだけだから。

 ダンジョンマスターに使う為の、他の魔法は取っておくし、魔法玉から魔力はまだ失われないよ。

 本当は、首輪もダンジョンマスターに使う特殊なやつじゃなくて、安物だよ。

 ケヒヒッ!」


 気味悪く笑いながら、訳の解らない、言い訳をする。


「始祖様に、奴隷の首輪をした事をいっているのよ!

 始祖様を助けるのではないの?

 最近リオはちょっとおかしいわよ?

 私はこれからこの事を長老と父に、相談しに」


 パアーン!!!


 自分の耳に直接響く音がどこかからした。


 ……。


 え?


 目の前で、激高しているリオを見て、私はリオから平手打ちを食らったのだと解った。


「五月蝿いんだよ! この役立たずが!

 お前が使えないから、皆が動いているのに!

 いつも、文句ばかり言いやがって!

 長老と父に、相談だと!

 作戦と情報を漏らす気か!」


 呆然とする私に、リオは続けて信じられないことを言い放った。


「もう良い! こいつも奴隷にしろ!

 首輪を持って来い!」


「し、しかしそれは……っ」


「リ、リオ様、長の娘はさすがに……」


 周りの者が、それを止めようとする。

 しかし、リオは、


「この計画は、命がけだ!

 相手は、ダンジョンマスターなんだぞ!

 我々、翼人、皆の為なんだ!

 半魚人の攻勢も、最近は強くなって来た。天空島を手に入れるのだ!

 皆の為だ! 長の娘といえども、一人の犠牲など、どれ程のものか!

 始祖も、ダンジョンマスターを捕らえてからでなくては、洗脳魔法は解けないのだ!

 命がけで、皆を守るのだ!

 奴隷化すれば、絶対に情報が漏れない! こいつを殺さなくて済むのだぞ!」


「た、確かに」


 ……ここには、リオの信奉者しかいない。

 せめて外で警備しているリオの信奉者では無い腕利き戦士たちに、始祖様の首輪の事を知らせられれば……。

 いや、ダンジョンマスターを捕らえてからでなくては、洗脳魔法は解けないなどと言っているし、苦しい言い訳であっても、言い逃れは出来る……。


 であれば、最終的にリオを止められる者など、ここにはいない。




 ……私は、奴隷の首輪をつけられた。




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 男性翼人、リオ・ダ・レナルの視点


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 約束の日、ダンジョンマスターが来なかった。


 僕の天才的な予定が狂ってしまう!


 始祖が洗脳魔法にかかっているとか、嘘をついてまで皆を動かしたのに。

 まあ、僕が僕の為につく嘘など、どうでも良い話だが。

 皆が僕に従うのは当然の事。僕に嘘までつかせた事を皆が反省すべきだ。

 ケヒヒッ。


 しかし、予定をもう一度やり直さなければならない。

 折角、拘束の魔法具を用意して、魔法玉に魔力を注入し続けていたのに!

 日数が伸びる分、奴隷商人にも余計な金を払わないといけなくなる。

 島から払う金だが、そもそも、いずれルル島の長になる僕の金ともいえる。


 苛立ちが募る!


 女二人に奴隷の首輪をつけて、少しスッキリしている所で、リリーが馬鹿な事を言い出した。


 始祖のことを、長老と自分の父に報告するだと?

 僕が始祖の事を報告していないのが、ばれるじゃないか!


 こいつは、馬鹿か!


 色々な事が、思い通りに進まない事も手伝って、思わずキレてしまった。


 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 怒りで考えがまとまらない。


 感情に任せて、リリーを奴隷にしろといったら、今度は他の馬鹿たちがリリーを庇いだす。


 一括して、叱り飛ばしたら、納得したようだ。

 従うのなら、最初からそうしろ。馬鹿が!

 僕は、もう直ぐ、天空島の王になる存在だぞ!


 勝ちは決まっているとはいえ、本当に命がけの勝負だ。万一もある。


 緊張や興奮で、感情的に成ってしまっても、仕様が無いじゃないか!

 ちょっとは察しろよ!


 どんどん高まる怒りと、約束された未来への高揚感で、ますます、感情が抑えられなくなりそうだ!

 今日まで我慢したのに、我慢できそうに無い。


 爆発しそうだ!


 奴隷の首輪をつけたこいつらで、今日の夜、楽しんじゃおうかな? ケヒヒッ。


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