第25話
眷属ロンドの視点
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本日は翼人の島に御方様が向かう日。
しかし、御方様は急に体調を崩され、ご自身の訪問を中止なさると言う。
眷属の誰もが当然の処置と感じている。
御方様の御身体よりも大事な事が、この世界にあろうか?
いや、有る筈が無い。
それでも御方様は、翼人に訪問を約束したため、これを反故にする事に心を痛められているようだ。
お優しい、御方様。
ああっ! 私が抱きしめて、慰めて差し上げたい。
御方様、ロンドは、ロンドは、……ああっ、御方様ぁ。
シルバが、無視してはどうかと、提案する。
もっともな意見だと思いながらも、何かと鼻につく女だ。
御方様を「アリス様」などと図々しく名前で言った後、名前を口にした事を恥ずかしがる素振りを見せる。
計算高い女!
大っ嫌い!
だからつい、「いまは、あなたの発言すべき順番ではありません」などと、御方様の前で言ってしまった。
シルバが睨みつけて来るが、怖くもなんとも無い。
怖いのは、子供の喧嘩のような振る舞いをして、御方様に呆れられていないかと言うこと。
御方様のお心を煩わせていないかと言うこと。
だから代理を立てると決まって、私が直ぐに手をあげた。
御方様のお気になさっている問題を、私が引き受ける。
ああっ。
御方様。
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代理は、私とエルで行く事となった。
エルは無難な人選だろうと思う。
彼女はルル島の住人と同じ翼人だから、相手も安心感があるだろう。
ただ正確に言えば、エルはアリス・翼人という種族だから、別種族なのだけど。
私もアリス・エルフ。
世界で最も偉大な御方様の、魂の系譜に連なる種族。
シルバじゃないけど、私たち御方様の魂の系譜に連なる者と、下々の者とは一緒に出来ない。
だからと言って、不当に扱う気は無いけど。
御方様は友好関係を望んでいるし、揉めない様に、なるべく相手の意向を無視せず、何事も穏便に済ませるよう指示された。
取り敢えず、あちらに、最大限合わせてあげれば、たぶん大丈夫。
エルはいつもボーッとしているから、私がシッカリしなくてはいけない。
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御方様から頂いた能力、限定転移魔法で、約束の岩場に降り立って直ぐ迎えの翼人が現れた。
三十人はいる完全武装の翼人たち。
何人かが、エルのほうを見て、驚いた顔をする。
翼人なのに、翼人が珍しいはずも無いと思うのだけど?
ともかく、前回の会談から考えると、翼人側も友好関係を結びたいらしいから危険は無いだろうけど、……それにしても物々しい。
でも、いまは取り敢えず細かい事はどうでも良いので、御方様が訪問できない旨を伝え、翼人に言われたとおりについて行く。
私は風魔法の応用、飛翔魔法で。
エルは翼人たち同様、自分の翼で。
翼人たちよりもエルの翼の方が、とても大きくて形が良く、色や光の反射具合も綺麗だ。
私が見ても、ついウットリため息が出る。
さすがは、御方様の名を冠する種族。
私も、どこかあのように美しく見える部分があるのかしら?
御方様にそう思っていただけると良いのだけど。
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ルル島を飛び出して、海上を三時間ほど飛ぶ。
以前の会談で話した、飛空石を見せたいと言っていたが、こんなに遠くまでかかるのかしら? と思わないでもない。
しかし、翼人たちと必要以上の口をきく理由も無い。
別に必要とあらば、丸一日だって飛び続ける。
何か不測の事態があっても魔力の足りる範囲内であれば、ダンジョン領域外からでも、限定転移魔法でダンジョンコアルームに帰れるし。
エルも何も言わないし、別に問題ない。
まあ、エルは問題があっても黙っているタイプかもしれないけど。
やっと目的の島に着いたと言われて降り立った島は、半径500メートルほどの小さな島。
この島に飛空石鉱山が?
それとも、島自体が鉱山なのかしら?
案内された島の中央に建つ塔は、とても古びていた。
十階建ての石造りで、左右に三階建ての塔が立っている。
壁が剥がれていたりして、かなり古臭く見える。
御方様の居城に比べてはいけないのだけど、ペットの小屋にしても貧相すぎると思う。
エルだって、隣で顔を顰めている。
……目に入りそうだった虫が、鬱陶しいだけかも知れないけど。
「なんでダンジョンマスターがいない!」
突然、大声が響き渡った。
何事かと、その声の方に視線を向けると、前回、天空島に来た翼人の代表者だ。
後ろに、数十人の翼人を引き連れている。
私たちを案内した翼人が「約束の場所に行きましたら、この二人しかいませんで……」と報告すると。
しかし、大声を出している男は納得できないのか、しばらく揉める様なやり取りが続く、
「今日に合わせて、儀式の準備や、仲間、魔法玉もかき集めたのだぞ!
幾らかかったと思っている!」
「解っておりますが……しかし」
「儀式の魔法具があるから、わざわざこんな遠い島まで来たのに!
あの商人だって、たまたま!……また、交渉しなければ……」
「ですので、こうしたら如何でしょう……」
コソコソと話しているが、代表者だった翼人の声が大きい。
かなり興奮しているようだ。
しかし、周りにいた男が何やら耳打ちしだすと、とたんにニヤニヤし始めて、笑い声まで上げだした。
やっと落ち着いてくれたようだ。
ここに来る前に、迎えに来た翼人には、最低限の説明をしてはいたので、御方様の都合が悪くなった事は理解してくれたようだ。
――でも、儀式って何かしら?
歓迎式典の儀式? 飛空石を採掘する前の、お祈り的儀式とか?
全然解らない。
御方様に忠誠を誓う儀式かしら?
それならば良く解る。
でも、こんな貧相な場所で?
しばらくして話が纏まったのか、代表者の男が近づいてきた。
確か名前はリオ。
顔に張り付いたような笑顔が気持ち悪い。
いまやっと、シルバの言っていた事が良く解る。
「とても残念です。アリスさんと会えるのを、楽しみにしておりましたので」
確かにその気持ちは解る。
御方様にお会い出来ると思っていて、それが無理と解ったら、私なら本当に泣いてしまうかもしれない。
シルバの嘘泣きと違って!
「御方様からも、非常に残念だとの伝言を預かっております」
「そうですか、では取り敢えず飛空石をお見せいたしますので、どうぞこちらへ」
案内されて、塔の中に入る。
こざっぱりしていて、ほとんど何も無い部屋。
いや、部屋と言うよりは空間。
縦、横、30メートル、五階くらいの高さまで吹き抜けの空間。
本当に何も無い。
あるのは、部屋の四方に配置された、マジックアイテムらしき大きな宝玉。
それと、部屋中心に、厚さ30センチメートル、半径3メートルくらいの巨大な金属製円盤が設置されている。
金属製円盤表面には、どす黒い煙のようなものが、靄がかっていて薄気味悪い。
何か、変な模様も描いてある。
……不気味な魔方陣?
――こんな場所で、御方様を歓迎するつもりだったの?
冗談にしても笑えないと思う。
翼人たちに周りを警護されながらエルと並んで進む。
――本当に何か儀式でもするつもり?
と思ったとき、
「あの魔法陣の中心で、飛空石が生まれるのです」
「生まれる?」
「ええ。飛空石は翼人の秘術によって、生まれるのです」
「そう、……なのですか」
はっきり言って飛空石の知識など、私には何も無い。
そうと言われれば、そういうものかと思う程度だ。
でも、鉱山に有るのではなく、魔法陣から生まれる石。不思議だ。
「いま、もう生まれるところです。
どうぞ近くによって、ご覧ください」
と促してくる。
「しかし、これ以上は……」
「どうぞ、どうぞ、魔法陣の中に入っても安全ですから。
ほら、僕も一緒に入りましょう」
見た目よりも、かなり強引な男だ。
何かおかしいとは感じたが、あまり無礼な態度も取れない。
御方様にも、なるべく事を荒立てず無難にこなすように言われている。
嫌々、男に続く。
「ほら! ここですよ。見えるでしょ?」
魔法陣の中心を指差す。
? 何も見えない?
隣でエルも不思議そうに頭を横に傾けている。
いい加減、嫌になってきた。
突然、飛空石の話が出て、何時間も飛んで来て、会って早々、挨拶も無く放置された。
更に、訳の解らない魔法陣の中で、見えない飛空石を見ろと言う。
「あのっ!」
私は抗議しようと思い、顔を上げた、瞬間……。
気付けば、すでに魔法陣を降りていた、リオが叫んだ!
「リストリクション!」
同時に、エルが魔法陣の外へと私を突き飛ばす!!!
しかし!
魔法陣の中から私が飛び出すギリギリ!
衝撃と共に、見えない何かが私の身体の回りを覆う。
魔法陣の中から湧き出してきた、不気味な黒い影が足に絡み付く。
それは勢いを増し、手、身体、頭、を覆う。
――動きが……動きが取れない。
視界の端で、エルも同様に固まっているのが見える。
「ヒャハハハハハハハハハ!
すごい、すごい。百年は使っていないと聞いていたが、まだまだ機能しているね。
アリスの奴隷化の前に、良い実験になった! 良しとしようか!」
私とエルの様子を観察していたリオが、哄笑をあげて楽しげに隣にいるキツネ目の男に話しかけている。
――御方様の奴隷化?
もう意味の解らな過ぎる展開の連続で、頭がついていかない。
――一体何が起こってるの?
直後、リオが合図して、小さなベルトを持ってこさせる。
首輪?
「いや、良かったよ! 予備もあって。
たまたま、奴隷商人が多めに持って来ていてね。
まだ首輪が余っていたんだよ」
そう言って、私とエルに首輪をつけてくる。
必死で抵抗するが、……指一本動かせない。
……頭の混乱、身体の拘束、御方様の期待に応えられない絶望の中で、私は必死の抵抗を続けた。




