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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第六章 血縁という名の呪縛
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Time03: Past

「好きだよと 言えぬ言の葉 風に揺れ

 次の季節の秋を彩る」



――ある落書き

 闇の国。幹部戦の時、俺たちが本拠地にしていた父さんの研究室から、少し離れた場所。そこに闇の塔はたっていた。空には、暗雲。


 なつみの父親と名乗る人物は、「ついてこい」と言って先にらせん状の階段をのぼっていってしまった。俺たち2人は――いや、俺だけが、進むのをためらっている。


 なつみ、今何を考えてる?


 「行こう」


なつみが口を開いた。声は低く、どこか恐ろしい。


「だが――」


「今更立ち止まれないさ」


「……」


 なつみ、お前は本当にそれでいいのか? あの人物はきっと、紛れもなくなつみの父親だ。過去で出会った英雄――ニーナとダグラ。彼らの特徴を、完全に受け継いでいる。


 「俺、さ――」


「ん?」


「何も知らなかった。なつみのおばあさんが、ダグラさんと結婚してたこととか、なつみの父親のこととか」


 なつみを盗み見る。その瞳は、黒い幻影の塔を映していた。


「私も――幹部戦のあと、咲夜ちゃんから聞いたんだ。なんていうか、よく覚えてなくて」


「そうか。なつみ、その、お前はさ――」


 真実を知るのが、怖くないのか?


 お前はこれから、自分の父親を――。


「ん?」


なつみはこんな時でも、笑顔を絶やさない。なんでそんな眼で俺を見るんだよ。一番つらいのは、なつみだっていうのに。


 やめだやめだ! そんなことばかり考えてたって、何も変わらない。なつみのことを心配するなら、自分自身がしっかりしなくては。


 そう、俺は過去で誓った。



**

 

 「ありがとう、ヘメラさん。――ごめん」


「いいえ」


 「僕も――」


「みんなを守るよ。迷わない、強さで」


**


 もう、迷わない。なつみを悲しみから守ってみせる。


 なつみの手は汚させない。俺1人で――。


 「自分1人でカタをつけようって思っているんだろ?」


「え?」


なつみが笑う。


「朔って、わっかりやすいんだもんなぁ」


 なつみはにへらと笑って、そう、その笑顔を崩さないままで――言ったんだ。


 「無理だよ。あの男は1人じゃ倒せない」



**


塔のてっぺんからの見晴らしは最低だった。そもそも闇の国が晴れることはないし、大地も干からびたままだ。祖父はここから、世界を支配することを夢見ていたのだろうか。


彼が座っていただろう玉座はボロボロだ。おそらくこの椅子に傷をつけたのは――。


 俺の母親と父親、そして――。


 目の前の小僧の、両親だ。


 「よく来たな、ガキども」


真っすぐな眼――痛いほど突き刺さる眼光が、俺を襲う。ああ、なつみ、本当に大きくなった――しっかりと両親の特徴を受け継いでいるじゃないか。あの時の俺たちの選択、何か違う方法があったのか?


いや、どのみち腐りきった世界に正解などなかった。



 **


 「ここが地球ね」


「ああ。ここでなら僕らは」


「幸せになれる?」


 彼女は笑った。すべてが満ち足りているように感じた。俺の母親が追い求めていたもの――幸せな場所、愛する人、永い永い時間――そのすべてを、俺は持っていた。


 不幸せになる要素なんて、どこにもないと思っていた。


 これは「幸せ」とやらに対する挑戦状だった。


 脆くも敗れ去るとも知らずに、俺たちは幸せの絶頂だった。



**


 「――私、みんなから避けられているような気がするわ」


「気にしすぎだよ。うまくやっているさ」


「だといいけど……」


「それより、もうあまり出歩かないほうがいいんじゃないか? 買い物や洗濯は、僕がやろう」


「ありがとう、草薙さん」


 彼女は大きくなったお腹をさすりながら言った。


「暑くなってきたわね……もうすぐ会えるかしら」



**


 「……学校に行きたくないって」


「なんだって?」


「……理由は分からない。だけど、友達ができないみたい」


「友達? そんなもの――」


 必要だとは思えなかった。だがそれは、今になって分かることだが、俺には彼女がいたから言えることだったのだ。


「……私、もう限界よ」


「……」


「この世界にもたくさん――」



**


あの子の眼を見れば分かる――あの瞳の奥に灯る炎、それは隣の青年と――過去の英雄と同じ色をしている。


我が娘は、愚かにもこの男のことが好きなのだろう。


あの時と、同じように。


歴史は繰り返すというなら、どこかで断ち切らねばなるまい。


それはきっと、今だ。


俺は傷ついた玉座をさすりながら言った。


「昔話をしてやろうか? それとも血に飢えた獣のようにかかってくるかい?」


返事はない。だが2人とも臨戦態勢だ。飛びかかろうと構える男を差し置いて、猛スピードで突っ込んできたのは、


 俺の娘だった。


「はぁっ!」


 右の拳が俺を襲う。右にかわすが、空を割く音がはっきりと聞こえた。本気だ。


「そうだな、お前が初めてハイハイしたのは10か月の時だ。だいぶ遅かった」


「……!!」


 地面からいばらが突出する。その色は腐食物のようにどす黒い。闇のバリアでガードする。


 炎の青年が遅れてスタートする。炎の拳を振りかざすが、まったく当たらない。こいつにはまだ迷いが見えるな。


 「だが歩き始めるのは早かったんだ。1歳になる前かな」


胸ぐらをつかみ、ガン。と頭突き。おいおい、もう少し女の子らしくしたらどうだ?


 瞬間移動で少し距離をとる。歴戦で慣れているはずなのに、男の方の手が止まった。


手のひらからツタを伸ばすなつみ。攻撃が単調すぎて遊ぶ気にもならん。地面から大木を出現させ上に逃げる。


「……!!」


 何か話したらどうだ? 俺はあまりおしゃべりな方じゃないんだよ。


 親父に似たのかもな。


 「小学校の時の得意科目は家庭科と国語。苦手科目はそれ以外全部」


 闇のエネルギーを充填して放ってきたか。だが、小さい。


「はぁ!」


2倍以上の大きさの気功波だ。お?


「なつみ!」


 なつみを押しのけて割って入ってくる男。文字通りヒーロー気取りかい?


「バーン・ストライク!」


 なるほど、大きさは一級だ。だが、


 中身がスカッスカだぜ。


「ぐあああああああああ!!」


押し返されみっともなく吹き飛ばされる男。まるでこの世の終わりみたいな顔をして振り向くなつみ。


「おいおい、せっかくの再会だってのに、話を聴いてくれないどころか目も合わせちゃくれないのか」


「許さない……!」


 唇を噛むなつみ。そうだ、お前は昔からそうやって悔しそうな表情をしていた。


「だったらかかって来いよ、クソガキ」


 俺が笑うと、闇のエネルギーがさらに増大した。いいぞ、面白くなってきた。


 そうは思わないかい? 母さん。


読んでいただきありがとうございした。次回、なつみと草薙の闘いがヒートアップします。

次回、「嫌い」。お楽しみに!

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