第八話 嫌い
「2030年 元気な男の子が生まれる。《情熱》の適性があるようだ。
使う時がないことを祈る」
「2030年 待望の女の子! 褐色の肌はお父さん譲りね。《愛情》の《力》があるみたい。
でも使うことなんてないわ。 私たちはここで、幸せになれるはずだから――。」
――ある母親の日記
「う……」
目を覚ました。冷たい風が塔の頂上に吹き続けている。
「は! なつみ!」
俺はなつみに攻撃させまいと奴の気功波と対峙した。そして押し負けたのだ。視線の先では、奴となつみが激しい肉弾戦を繰り広げている。慌てて駆け寄った。
「なつみ! よせ、1人じゃ危険だ!」
「邪魔をするな朔! これは、私の問題だ! ……ぐっ」
空中からの一撃をくらい、地上に落ちるなつみ。息をつく間もなくむくりと起き上がる。
「その意見には賛同するぜぇ」
天空から俺たちを睨む邪悪な男。なつみの――父親。
「こいつは、私が――!」
「待てなつみ! 1人では倒せないと言ったのはお前だろ! ここは2人で協力して……」
「残念だなぁ青年。《愛情》と《情熱》は決して相容れない。そういう風に決まってんだ。ずっとずっと昔からな」
「どういうことだ」
奴が闇の《力》を宿した玉を生成した。気弾じゃない、なんだ――?
「お呼びじゃねえってこった」
やつがそれをなつみの眼前に投げつけると、爆発したそれはペースト状に伸びていき、なつみを捉えるとバリアをとなって囲っていく。
「ま、待て! なつみ!」
手を伸ばしたが、強力な闇のバリアに弾かれた。
「朔……私は大丈夫」
儚げに笑うなつみを捉えたが最後、バリアは黒い霧に包まれ、見えなくなった。
「くそっ!」
バーン・ストライクを撃ち込む。まったく変化はない。
何やってんだ俺は! こじ開けてみせる、絶対に――!
**
「父親をそんな眼で見るもんじゃない」
やれやれ、といった様子で笑う新垣草薙。その黒い瞳はこの世の深淵を映しているのだろうか。
「あんたは父親じゃない」
「……なあなつみ。お前が親を否定したい気持ちは痛いほどわかる。……かつての俺もそうだった」
「私は、あんたと同類じゃない」
草薙は、ふう、と大きく息を吐いた。
「なつみ。家族関係というのは時代を追うごとに様々に変化している。共働きが故に寂しさを抱える子供、両親がそろわない家庭、三世代同居もあれば核家族もある。俺はそれを否定したりしないさ」
「分かったような口をきくなよ」
草薙は、私を捉えて強い語調で言った。
「俺はそんな家庭を腐るほど見てきた。――地球でだ」
「……」
「だが1つ確実に言えるのは、俺たちは『血縁』という名の結びつきに縛られているということだ。一種の呪いと言ってもいい」
呪い――? 今こいつは、呪いと言ったのか?
「天界で生まれる前の子どもが『ボクはあそこのおうちにするー!』なんて言ってよぉ、子供が親を選ぶと思うか? SF映画見たいに、遺伝子情報を完全に熟知してどんな子供が生まれるか事前に理解したうえで、子供の誕生を心待ちにしてると思うか? 違うな。子は親を、親は子を選べない」
「……何を信じようが自由だ」
「おおぉぉ、ずいぶん優等生な意見じゃないか。それはごもっともだ。だが、理想と現実はいつだって違う。いつだってな」
そんなこと、私だって知っている。
「俺はもう少し出来のいい娘が欲しかった。お前は俺を父親と認めない。この親にしてこの子あり、だ。だがそれでも、お前は俺の娘だ」
「なぜ、魔王に付き従っている? なぜ人々を石にするんだ!」
少しの沈黙。草薙は意味深に顎に指をあて、目を閉じた。
「ハーティア……平行世界の神寺宮咲夜が言っていたはずだ。『この世界は取り返しがつかない』、と。どのみちこの世界は魔王によって存在を抹消され、新たな世界が幕を開ける。人々を石にするのは、そうだな――魔王の憂さ晴らしなのかもしれない」
うさばらし?
「あるいは――魔王は殺生を好んでいないのかもしれない。反逆分子を始末するとき、殺しではなく石化で手を打った」
「殺すのも、石にするのも同然だ!」
「お前だって知っているだろう? 魔王を殺せば、石化した人は元に戻る。これが何を意味しているか分かるか?」
魔王は、私たちを挑発している。
「そう。これはいわば貧弱なお前たちに与えられた、ボーナスステージもとい敗者復活のラストチャンスってわけだ。魔王はお前たちの挑戦を見物している。そして」
草薙は大げさに手をこちらに伸ばした。
「魔王は、お前を待っている」
「私を、待っている? 石にするためとでも言うつもりか」
「いいや? じきに分かるさ」
「……最初の質問に答えろ。なぜ魔王に従っている?」
「訊けば何でも教えてくれると思ってるのか? やっぱりまだまだ子供だな」
軽口に惑わされてはいけない。奴の頭を、心臓を砕く。そうすれば終わる。
「あ、そうそう。1つ言っとくと、俺は魔王ほど甘くないぞ。娘とはいえ本気で行く」
「さっき、『呪い』と言ったな。出来の悪い娘のことを呪いたい気持ちは?」
「どうだかな。おしゃべりできて、楽しかったよ!!」
ぎらついた眼で突進してくる草薙。その顔は、かつて共に闘ったおじいさんに似ていた。
「は!」
手刀――。縦に構えた腕で受けきる。相手が魔法を使ってもいないのに激痛が走るのは何故だろう。
「これで終わりじゃねえぞぉ?」
奴が《力》を込める。闇の魔法が褐色肌を包み、こっちに向かってくる。さっきと痛みが大違いだ。その様子を見て、草薙は攻める手を休めない。
「ぐ……」
「何故反撃しない?」
したいのは山々さ――。数秒の間にこれだけの連続攻撃、まともに向かっていってもスピードで負けている。
「……」
奴に気づかれないように、ツルを下に這わせ、床に突起をつくる。1歩後ろには、結界の壁が禍々しく蠢いていた。かなりの広さがあると思っていたが、もうここまで追いつめられていたか。
「つっ!?」
私を追いかけた草薙が、床の植物に引っかかってバランスを崩す。この一瞬しかない!
後ろに回りこみ、気功波を溜める。しかし。
「なかなか古典的な手だなぁ。図書館でも思ったが、お前の気功波は遅いうえに隙だらけだ」
こちらを見もしないで、後ろ手で殴られただけで私は転んでしまう。へたり込んだ姿勢から見ると、奴の身体はとてつもなく大きく見えた。
これが、父親――?
**
「ふゆみちゃんの家族って、どんな人?」
「両親のことはよく知らないんだ――だけど私のおばあさんとおじいさんは、とっても素敵な人だよ」
「へぇ!」
「私、ふゆみちゃんに尊敬されるような大人になりたいな。なれるかな」
**
過去世界でおばあさんとかわした言葉を思い出す。私と同じ、きれいな褐色。それは目の前の人物と似ても似つかないもののように思えた。
ニーナちゃん、私、自分の父親だっていう人に出会ったよ。でも、信じられないんだ。だってとっても怖い顔をしているんだもの。
おばあさん、教えてくれないかな?
あなたの息子って、どんな人?
「いつまでみっともない姿でへばってるつもりだ。来いよ」
ゆっくりと起き上がる。背中が重い。まるで、何かがとり憑いているみたいだ。これは、この《力》は――。
「いいぞ、その《絶望》に歪んだ顔。俺が見ててやるから、全力で来い」
右腕を伸ばす。標準は、ヘラヘラと笑っている目の前の男だ。
「指南役なんて、たまには父親らしいこともしてみるもんだな」
「余裕ぶってんなよ」
私の手のひらの中に、黒くて暗い何かがたまっていく。それをぶっ放す時が楽しみにも思えてきた。これを放った時、私はどうなってしまうのだろう。
5。
「な、なんだ……? 急にパワーが……」
4。
考えてみれば、いきなり父親だなんて言われても信じられないのも当然だ。
3。
「ずいぶん《力》が溜まっているじゃないか。なにか心境の変化でもあったのかい?」
2。
私はあの施設で、ずっと父親を待っていた。手紙をくれたことがあったから。最後の手紙には、私を心配していること、いつか迎えに来ること、優しい闇の《力》をもつおじいさんがいることが記されていた。
1。
私の父親は、こんな奴じゃない。こいつは――私の父親じゃない。私は、こいつが嫌いだ。
だから、殺してもいい。
「何笑ってるんだ?」
0。
読んでいただきありがとうございました。次回、戦闘が続きます! 朔は間に合うのか!?
次回、第九話、「機雷」。お楽しみに!




