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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第六章 血縁という名の呪縛
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第六話 ララバイ

「ねーんねーん、ころりーよー、おこーろーりーよー」


「眠れない! ヘメラ、この人誰?」


「近くに住んでいるおばさんよ」


「ほらほら、眼を閉じて!」


「能力者なの?」


「いや、違うよ?」


「じゃあ――」


「いい? よく聞いてエア。能力があるとかないとか、そんなことは問題じゃない。大切なのは――」



――ある妖精の会話

 「一瞬だと……うぬぼれだけは一級だな」


うぬぼれ……? 違う、そうでもしなければあの子が……!


 雷が、ディアナの視界を奪う。


「はぁっ!」


 私は、竜巻逆巻く足蹴りを仕掛ける。しかしディアナは一瞬でその身を引いている。


「くっ」


「目くらましとは、古典的じゃないか」


 不敵に笑うディアナ。無防備になった私の肩に、肘を落とす。


「ぐああ!」


この女、体術もできるのか――!


「どうした妖精! 1人では所詮この程度か!?」


怯んだ隙に、ジャブを連打するディアナ。私は徐々に地面へ落ちていく。反撃するが、すべてガードされている。振り返ると、涙目のエミさんが不安そうに空を見上げていた。


1人では――。そうだ、私はいつも、誰かから《力》をもらうことで成長してきた。私1人では、何もできなかった。



**

 

 「これ以上――誰も傷つけさせはしない」


「え、英雄しゃん……だめでち、落ち着くでちゅ」


「だから、僕がやると言ったんだ――余計なことをしたな、エア」



**


  「あーあー勝手に始めるんじゃないよ」


「炸亜……」


「どうやらネクローに洗脳されているようだね。それとも、英雄が敵っていうのは本心なのかい?」


「炸亜……来てくれたんだ」


「待ってな妖精ちゃん。あの人に怒られるのも癪だから、なつみの様子を見に行くよ。こらこのバカ息子、とっとと起きる!」



**


 「私は暗い過去を持ち、《絶望》に染まっていた。でも、今は気分がいい。《絶望》の中にある、《希望》を《信じ》たいと、心からそう思うよ――お前たちのおかげだ」


「お母さん……私、お母さんのこと、信じてる。お母さんに、幸せの風が吹き抜けますように」



**


 みんなが私を支え続けてくれた。私は彼らに何かできただろうか?



**


 「もし私にできることがあるのなら――協力させてくれないかな? 私を、あの星に連れて行ってくれ」


「――ごめんなさい」


「ごめんなさい。あなたの家族がいないのは、全部私たちの――」


「あたちたちのせいなんでちゅ! うわあああああああああああああああああん!」



**


 新垣草薙、そして魔王。その正体がどうであれ、なつみを巻き込んだのは私だと初めから分かっていた。なつみも朔も、今一番耐え難い真実に直面しているだろう。勉学や人間関係とは比べ物にならないほど、わめいて逃げ出したいはずだ。私だったら、立ち向かえるか自信がない。


 英雄たちは、成長を続けている。私なんかより、もっともっと速い速度で。


 だったら私だって、死んでもやり遂げなければならないことがある。これは罪滅ぼしでもあり、約束でもあり、彼女らが私に向けてくれた、


 《信頼》への、こたえだ。


 「堕ちろ、妖精!」


強烈な一撃がみぞおちに決まる。今までにない速度で落下していく。


「きゃあ!」


エミさんが目を背けた。ディアナめ、やはり策士か。私がこの速さでエミさんに激突したら、直接手を下すことなく2人を処理できるというわけだ。


「まだだぁ!」


 エミさんに向け、弱風を飛ばす。エミさんの身体は私の落下地点から離れ、最悪の事態は免れた。爆音とともに、固い床が私の背中を迎え入れる。


 「最後の最後までその女を庇うのか。愚かな」


「この子を守ると約束した。絶対にだ!」


「《信念》、か。しかしそんな身体ではもう闘えまい。おとなしく石にされたらどうだ」


「この一撃で、お前を倒す! すべてをなぎ倒す烈風の神よ! その偉大なる進撃によりて、信奉の風に新たな力を! 逆襲の向かい風エクディ・アンタナクラシィ!」


両手を前に突き出すと、大嵐が一直線にディアナを襲う。頼む、決まってくれ――!


「お前の必殺技と言うわけか、だが、無駄だ」


ディアナがバリアを張った。私のものより数倍硬い――! 貫いて、みせる!


 「うおおおおおお!」


「けなげだなぁ。なぜそこまで頑張る?」


 ディアナ、それはきっとあんたが咲夜を追い求める気持ちと同じさ。


かけがえのない、仲間だから。


ずっとずっと、信じているから。


燃え尽きるほど、愛しているから!


 「はあああああああああ!!」


 私の身体が白く輝く。レベル5――時間がない。


「わ、若返った?」


「はあああああああああああ……っ!!」


「肉体にも限界が来ている――諦めろ」


「諦めない、あきらめないぃ……」


 レベル4。


 バリアに亀裂が入った。あと少し。


「貫け、つらぬけぇっ――!!」


レベル3。


 亀裂が広がっていく。いける!


「ば、バカな――これだけ弱体化して、なぜまだ《力》が……!?」


 レベル2。小さい頃、ヘメラが教えてくれた。



**


 「ねぇ、ヘメラとニュクスって仲悪いの?」


「どうして?」


「だって、もともと1人だったのに分かれちゃったんでしょ?」


「ふふふ、仲が悪いわけじゃないわ」


「じゃあなんで?」


「大好きな人を、抱きしめられるようにするためよ」


**


 まおうをたおせばニュクスとヘメラは元にもどる……こいつに勝って、まおうにも勝って、わたしは2人をだきしめにいく!


 「はああああああああああああ!」


 暗雲がわたしの方に降下し、大嵐の中に融合した。雷鳴も渦の中にきらめいている。


 「《絶望》から生まれる《希望》――わたしはそれを《信じ》てる――でち! 信託の大竜巻ピスティシア・メガケイモ!!」


「な、なに……!? 《絶望》と《希望》まで融合しただと!?」


「いけえええええええ!!」


 あたちの叫びとともに、ディアナのバリアが破壊され、直撃した。勝てたでちゅか――?


 「フ、フフ……妖精風情と舐めていたよ――だが惜しいな」


 きれいに整った金髪は乱れ、服はきわどいところまで見えている。身体中は傷だらけ――でも、やつは、生きている。


「そ、そんな……」


 あたちの《力》はもう残っていない。勝てない――。あたちは後ろのエミさんを振り返った。


 ごめんなさいでち、なつみ、英雄しゃん……あたち、エミさんを、エミさんを――。


 殺してしまう――。


「あと1歩、あと1歩だったな。だが」


ゆらゆらと近づいてくるディアナ。ただの足蹴りで吹き飛ばされてしまうほど、今のあたちは軽い。


「あうっ」


「死ねぇ!」


光の剣が迫る――死を覚悟したその時、あたちは抱き寄せられた。


 「こんな小さな子をいじめるなんて、ダメですっ!」


エミさん――!


「逃げるでち、逃げて――」


 約束、だったのに――。


 エミさんは優しい表情で、あたちの頭を撫でた。


「もう逃げられないよ。大丈夫。あなたのことはよくわからないけれど――私を守るために頑張ってくれたんだよね? ありがとう、エアちゃんは本当によく頑張ってくれたよ。1人でよく頑張ってくれた」


1人で――? 私はまた、1人では何もできなかった――。


「ごめんなさい、でち――」


「ううん」


 あたたかかった。この感触は、昔――誰かに抱きかかえられた時のものに似ていた。


 ディアナが目と鼻の先で、私を見下ろした。


「よくわかっているじゃないか、無能」


「私もこの子も、無能なんかじゃない」


「ほう――地球人にも、こんな眼をする者がいたのか」


「大丈夫だよエアちゃん。きっともうすぐ、なつみさんが来てくれるから」


 ディアナを無視し、あたちに語りかけるエミさん。ああ、私はとんでもない勘違いをしていたみたいだ。


 あたちは今回も、1人なんかじゃなかった――エミさんを守りたいという《信念》、それがあたちの原動力になっていたんだ。


「ほんとによくわからないけど――なつみさんにも、今みたいな《力》があるんでしょう?」


 そしてエミさんも、なつみを信じている。


「残念だが助けなど来ない。英雄などただの夢物語だ!」


 剣が振り下ろされる、チャンスは一瞬だった。


 「手を――手を握ってくださいでち」


読んでいただきありがとうございました。次回、エアとディアナの対戦に決着がつきます!

次回、第七話、「バイバイ」。お楽しみに!

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