第五話 雷鳴
「わあ、キレイな羽根! コスプレかわいい~っ!!」
「『こすぷれ』って何ですか?」
「え?」
「え?」
――ある妖精の会話
1度はここ、ハーノタシア図書館に戻ってきたみんなだけど、また分かれて闘うことになってしまった。咲夜がハーノタシア星を去り、魔王と共に《第三の世界》へ向かった。1人で勝てるのだろうか。私は、立ち上がることなく叫んだ。
「私も行く!」
「エア。エアはエミさんを守ってくれるかな」
私を優しく制止したのは、なつみだった。声は優しいけれど、眼は笑っていない。
なつみが、ぶっきらぼうに右腕を差し出した。私は困惑して見上げる。
「いくらでも《力》を持っていってくれ」
「でも、なつみは――」
これから、父親と闘うんでしょう?
「構わないよ、だって――」
父親を睨みつけるなつみ。闇のオーラが彼女を覆う。
「《絶望》なら、いくらでも湧いてくる」
何も言わず、ゆっくりとなつみの手を握った。全身に力が入っているのだろう、少しこわばっている気がした。私は、祈りながら成長していく。
なつみ、あなたの本領は《愛情》だよ。
どうか、届きますように。
「こんなに大きなエアは、初めて見るよ」
「前にこの変身をした時、なつみは意識を失っていたからな」
「幹部戦のあと? 懐かしいね」
そうだ。その頃、私たちは奴らの全貌を何も知らないでいた。
ニュクスの中にいた私は、魔王の正体を知っている。それを伝えるべきかどうか、迷っていた。
2人なら、なんと言うだろう?
ニュクスは、伝えろと言うだろう。
ヘメラは、やめておけと言うような気がする。
厳しさと優しさをもった2人。元は、1人の人間だった。
もちろん、私も。
「《力》を分けてくれて、ありがとう。レベル6――いけそうだ」
「いまいくつ?」
「おっと。レディに年齢は禁句だぞ」
「あはは」
なつみは八重歯を見せ、笑った。そして真剣な顔つきになり、言った。
「行ってくる」
「ああ。――なつみ、この星の事情になつみを巻き込んだのは私だ。すまない」
魔王の正体、そして草薙が「どちら側」なのか――それを知っていれば、なつみをこの星に連れてくることはなかっただろう。
「何を今更」
なつみは手を伸ばして私の頭を撫でると、私を抱き寄せた。
「死なないでね」
「ああ」
私たちは、数秒間眼を閉じ抱き合った。永遠より長く、尊い気がした。
「場所を変えるぞ。闇の国の城なんてどうだ? 俺の祖父――お前の曽祖父が世界を統治した場所だ」
帝王シーボルスは、ダグラの父親だ。なつみ、君の血は混沌にまみれているのかもしれない。
「どこでもいい、早くやろう」
「大丈夫なのか、なつみ」
英雄くんが心配そうに声をかけた。なつみは質問を無視し、
「――勝とう」
と言っただけだった。
「いい返事だ。さあ来い」
次元の裂け目が開く。草薙が飛び込んでいき、続いてなつみ、英雄くんが飛び込む。
「え、あ、どこ行くんですかぁ~!?」
地球人――エミさんが言った。私は、この子を守ってみせる。
「貴様なんか相手にしている暇はない――私はハーティアを……っ!」
この女を、倒して。
**
「あの人、めちゃくちゃ怖い顔なんですけど……」
「私から離れるな」
「え?」
「はーっ!」
ディアナが光の剣を携え斬り込んでくる。どこか、美海さんを思い出す。
「はっ!」
音もなく風が集結し、バリアが出来あがる。奴の剣撃を防ぐ。
「守ってばかりでは勝てないぞ!」
「そうか、なら」
バリアが分解し、カッター状に鋭くなってディアナを襲う。顔や腕、胴体に命中し、血がしたたり落ちた。
「きゃあ!」
「見たくないなら目をつぶっておけ!」
「あ、あなたたち、一体何をしているんですかあああぁ~!?」
「ふ、こんな程度――」
ディアナの肉体が黄色い光に包まれ、傷口がふさがっていく。光の超回復――こんなものでは意味がないか。
「どうした? そんな程度か?」
「いや?」
「ならもっと本気で来い!」
今度は光の気功波――! 再び風のバリアで守る。
「ぐっ――くううっ……」
「フハハハハ! 分かっているぞ、妖精! お前はその地球の女が邪魔で思ったように闘えんのだろう!」
さすがに、ばれていたか。
「その女が邪魔なら、石にしてやろうか? そうすれば、お前も本気を出せるだろう」
「ひいっ、や、やめてくださいっ!」
怯えるエミさん。無理もない。通常の人間なら、こんな場面耐えることはできないだろう。
「そういうわけには、いかないんでね」
「教えてやろう、お前のその笑いは恐怖を隠すためのものだ」
「……」
「お前の《力》は他人に依存することでしか発揮できない。バリアを維持するのにも魔法力がいるのだろう? あまり時間を使うと、どんどん幼児化していくぞ」
「ご忠告、感謝するよ」
悔しいが奴の言う通りだ。かと言って彼女を放置して流れ弾が当たりでもしたら、彼女は簡単に死んでしまう。どうすればいい、どうすれば――!
「私も早く勝負をつけたいんだ。ハーティアが待っているのでね!」
現れたのは無数の小さな結晶、鏡――? 中央からレーザー光線が発射される。
「ぐっ――」
バリアに亀裂が入った。張りなおすか? いや、こんなことをしていても時間稼ぎにもならない! 勝つには、攻めるしかない!
「ごめんなさい神様仏様その他もろもろの偉い人! ――消えた?」
瞬間移動で、ディアナの目の前に詰め寄る。
「やっとその気に――ぐあっ」
竜巻逆巻く拳が、ディアナの顎にヒットした。
「はぁっ!」
片手をかざした。暗雲が立ち込め、積乱雲がもくもくと高さを増す。雷鳴が轟き、ハーノタシア図書館に雨が降り始めた。
「せっかくの蔵書が台無しだ」
「ハクシキーノさんにはあとで謝っておくよ。それより自分の心配をしたらどうだ?」
「うええ、部屋の中なのに雷がああ!」
「一瞬だ。余裕こいてると飛ばされるぞ」
読んでいただきありがとうございました。次回も光と風の激闘が続きます!
次回、第六話、「ララバイ」。お楽しみに!




