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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第六章 血縁という名の呪縛
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第四話 薄命

「んしょ、んしょ――こんなことしてたら、ダイイングメッセージみたい、かな」


「ニーナ? 何してるの?」


「わわっ、美海!? な、何でもない、こ、これは違うのっ!」


「これは……文字?」


「違うってば! 私、帰るね!」


「ニーナ、最近私たちのこと避けてない?」


「え!? そんなことないよ、それじゃあまた!」


「行っちゃった……」


「んー? 『好きだよ』? これって……」



――ある乙女の会話


**


 「ようこそ、ハーノタシア星へ」


「あんたが、《悪魔》?」


 私が初めてあの人に会った時、すべてが未体験で、すべてが新鮮だった。


「ああそうだ。だが名前で呼んでくれると嬉しいな。ニュクスだ」


「よろしくね、ニュクス。で、私の仕事は何? データ分析なんでしょ?」


「佐久間の奴……あれほど嘘をつくなと言ったのに」


「え?」


「咲夜。お前には第一線の戦闘員として活躍してもらう」


「ええーっ、戦闘員!? 無理無理無理! 私ってばか弱い女の子なの~」


全力で逃げようとする私の背中をつかみ、ニュクスは笑った。


「心配することはない。私がこの星の魔法の使い方を教えてやろう。自信を持て、咲夜。君は炸亜の娘であり、炸人さんと美海さんの孫だ」


「で、でも……」


 その時《悪魔》は、とても人間らしく笑ったんだった。


「私がピンチの時は、助けてくれよ?」



**


 ごめんねニュクス。私、あなたを助けてあげられなかった。それも、私のせいで――。でも、ここで終わらせるから!


 「……作戦は?」


私たちは未だ剣を交えながら会話を続けていた。キリキリと刃が擦れる音が聞こえる。まるで子犬がじゃれ合うように、私たちは力比べをしていた。


「奴には瞬間移動がある。逃げ場がなくなるように佐久間が活路をつくってくれるわ。私がおとりになる。咲夜ちゃん、あなたが――決めて」


「おばあちゃんじゃなくていいの?」


「あなたはこの星に来て、うんと強くなったはずよ――何年も、何十年も前の私よりもね」


「うん!」


 お兄ちゃん、ごめんね。見せ場、もらっちゃうから!


「……準備はいい?」


「うん」


 魔王の倒れた先に、私たちの未来が待っている――決める!


 「絶壁氷斬剣メテオラ・クシポス・クルシュタッロス!!」


私たちの声が重なるとともに、氷刀と氷剣が形を変える。左右それぞれに湾曲した鎌――それが融合して剣先が伸びる。


 「ものすごい《力》――この距離からでも凍ってしまいそう。だけど」


魔王が火炎弾を発射した。


「頼んだわよ」


そう言い残し、おばあさんは視界から消えた。速い――何十年ものブランクなんて全く感じさせない。


「はっ!」


空中で火炎弾が凍る。魔王が手を伸ばしたまま笑った。


「……フン」


「行かせないわ」


 魔王とおばあちゃんの肉弾戦が始まった。お互い空中へ飛びながら、激しくぶつかり合う。く、この動きを捉えてこの大きな一撃を浴びせるのは難しい。だけど魔王が素直に止まってくれるわけないし――。


 「咲夜!」


パパの叫び声。魔王には聞こえていない。


「俺が奴の足場を凍らせる。一瞬だ、それでいけるな?」


「充分!」


「俺の作った道以外では、瞬間移動が封じられる。その刃渡りなら逃げ場は完全になくなる。それにしても咲夜――お前は本当に、お義母さんに似ている」


「私、この世界を知れてよかった。パパのおかげだよ。――絶対に、勝ってみせる!」


 上空の魔王を見上げた。この剣の重さでは、飛び上がって攻撃することはできない。おばあちゃんとパパ、2人の協力が不可欠だ。


 「はあああああああああ!!」


 一直線に走りだした。剣が重い。瞬間、背後からひんやりとした冷気が立ち上った。


 「行け、咲夜!」


パパの活路――文字通り、私の左右に道ができる。ガラスの破片のように散りばめられた半透明の氷が連なり、私を導いてくれる。


「……すごい《力》。だけどこの距離では届かないわ」


「じゃあ届く距離まで導いてあげる」


 おばあちゃんの気功波が蒼く輝く。魔王の光の気功波とぶつかる。相性では不利だけど、でも。


「私も、あの子ぐらいの年だった時を思い出すわ。何もかも、一生懸命だった」


「あなたは、私に勝てない」


「少女たちはただがむしゃらだったの。今も、昔も!」


「ば、バカな……!」


 おばあちゃんの気功波が、少しずつ魔王のものを押していく。私は少し歩みを緩め、まっずぐ前を睨みつけた。


 奴の落下点は、あそこ!


 「時の魔王――残念だけど、私たちの時代はもう終わったのよ。新しい時がやってくる。あの子たちの、時代が――」


「ぐ、ぐあああああああああ!!」


 大きな爆音とともに、魔王が落ちてきた。あと数歩、それですべてが終わる。


「ぐ……こ、こんなことが――」


 ひどい形相でおばあさんをにらみつける魔王。この勝負、もらった!


 魔王の足が凍り始める。これでもう、逃げられない。


「な、なに……」


「すごい顔。いくら魔王でも、追いつめられるとそんな顔をするんだね」


「神寺宮――神寺宮ウウウウウウウゥゥ!!!」


「これで、終わりだよ!」


 大剣を振り上げた。


「わ、私には瞬間移動がある!」


「無駄だよ、あなたの魔法はこの氷の範囲でしか使えない! これじゃどこに逃げても剣の餌食になる!」


問題は後ろに回られた時――大丈夫、2人がいる!


「わ、私が、負ける――?」


 「くらえええええええええ!!」


「私が負けるなんて、あってはならない!」


 魔王が光のバリアを展開した。 今までのどんなものより硬い! いや、硬いのは上部だけ。だったら斜めに斬りこめば――!


「はあああああああああ!!」


 バリアが斬り壊された。


  勝った――!


「お子様は純粋で助かるわ」


 瞬間、魔王の姿が消えた。消えた? ううん、瞬間移動は無効化されている!


嵐のような空気が流れる。私たちの大剣は、おじいさんがいる壊れた檻近くまで地面をえぐった。


 おかしい――。手ごたえがなさすぎる。


「ま、魔王は――?」


 魔王の気配を感じない。私の勘違いで、うまくいったのだろうか。


 その時、《第三の世界》に赤子の鳴き声が響いた。


「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ――」


「赤子!? いったい――」


 視線を左に移すと、赤子はどんどん成長していく。


「あ……あ……」


「……なんてね」


魔王、だった。


「ど、どうして」


「簡単な話よ。能力も瞬間移動も、なにも使ってない。ただ時間を戻しただけ」


「そ、そんな――魔王、あなたは――」


 大人の色香を漂わせる魔王。その顔はとっくにいつもの余裕を取り戻している。


「その剣――真正面から縦に斬られたらかわしようがなかった。だけど斜め切りなら避けられるの。そう、赤子の姿ならね」


 時の魔王――こいつは、自分自身の時間を操れるのか――!! バリアの上部だけを頑丈にしたのは、斜めから斬りこむことを誘うため――!!


「そんな驚いた顔をしないで? あの《悪魔》なら知っているはずよ。今はもう石になっているけれど――アハ、アハハハハハハハハハ!!」


そんな――私の、負け――。


「さよなら、小さな英雄」


魔王が石化魔法を発射した。


「咲夜! 咲夜!!」


後ろから、おばあちゃんが駆け寄る。パパが必死で止めた。


「お義母さん、いけません! 私が――ぐうっ」


パパは足を痛めている。魔法力も、もう限界だろう。


 「2人とも、ごめんね? ありがとう――」


身体が固まっていく。最後の力を振り絞って後ろを振り向いた。


「もうすぐ、最強の戦士がここにやってくる。私は、その2人を見てるのが大好きだった。その2人は、絶対に負けない、絶対に――」


「さ、咲夜――」


 おばあちゃんの両目から、氷の粒がこぼれ落ちていた。


「おばあちゃん、生きて。おばあちゃんならできる。時を――ぐっ」


 伝えなきゃいけないのに、言葉がうまく出てこなかった。


「咲夜――もういい、もういい」


「パパ――おじいちゃんたちを守って。みんながいれば、勝てる」


「わかった」


 意識が遠のいていく。ああ、残念。勝てたと思ったのになぁ。


ま、いっか。


この星の運命は、2人に託された。


 頼んだよ、お兄ちゃん、なつみ先輩。



**


 「佳人薄命――だったかしら?」


「き、貴様、よくも――」


「絶対に――絶対に許さない」


「絶対に許さない? ふふ、次はあなたたちが石になる番よ」


読んでいただきありがとうございました。次回から、エアvsディアナ編です!

次回、第五話「雷鳴」。お楽しみに!

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